『ねじまき真野さん』斎藤けん
ネタバレします。未読の方はご注意くださいませ。
家の事情により、有名なお嬢様学校から公立高校へと転校してきた真野さん。
幼い頃に教えられたとおり、長い髪を固く結ぶ(=ねじを巻く)ことで感情をコントロールしてきた彼女でしたが、新しい学校で隣の席になった野田くんになぜか目をつけられ、なにかと構われて……。
真野さんのキャラがとても好きです。
見た目はお人形さんみたいなのに、口を開けば現代版武士のような話し方で。
野田くんはさすがに笑いすぎだと思うけれど、気持ちはわかる気がします。あのギャップはすごい。
ヘラヘラしていてチャラくてなにを考えているのかわからない野田くんですが、中学時代の彼を知る同級生たちと出会ったことで、真野さんは間接的に彼の過去を知ることになります。
当時の野田くんはまじめ一辺倒で、つきあっていた彼女に対する独占欲がすさまじく、彼の庇護下から抜け出そうとした彼女にキレて、そのときに負った怪我の痕が彼の手には刻み込まれていて。
はじめのうちは、野田くんに弱味を握られて致し方なく行動をともにしていた真野さんでしたが、席替えを機に、彼はぱったりと接触してこなくなります。
そうなってはじめて自分の感情を自覚した真野さんが取った行動がまた、すごいのなんの。
読み終わったあと、ねじが飛んでしまった真野さんと野田くんはこれからどうなるのだろう、と思いを馳せながら次のお話を読んだのですが。
『架空庭園』
主人公の星さんは、小さい頃から幼馴染みのせーちゃんと仲が良くて、そのせいで周りの女子たちから目の敵にされてきたため、いまだに女の子が苦手で友だちもいません。
せーちゃんは剣道部の主将で頭も良くて、みんなから人気があります。
だから、せーちゃんとつきあっていることは誰にも秘密なのです。
そんなある日、星さんは、空腹のあまり行き倒れていた瀬名さんという女の子と知り合います。瀬名さんは見た目も派手なうえ、すごいヤンキーのお兄さんがいると恐れられていました。
せーちゃんからも、彼女には関わらないようにと忠告されるのですが……。
おとなしい性格の星さんが、瀬名さんとの出会いをきっかけに、いつもせーちゃんに助けてもらってばかりじゃなくて、ちゃんと胸を張ってせーちゃんの彼女だといえるようになりたい、変わりたい、と決意するのですが。
それを聞いたせーちゃんがキレて瀬名さんに手をあげようとしたのを止めるため、カッターを取り出して自分自身を傷つけようとした星さん。
その刃が、せーちゃんの手に怪我を負わせてしまいます。
過呼吸の発作を起こし倒れた星さんが目を覚ましたとき、せーちゃんはもうすでに姿を消していて。
星さんが自分ではなにもできず、せーちゃんがいないとやっていけない、と思い込んでいたのは、実はせーちゃんがそう仕向けていたからで。
星さんが自分だけを頼るように、ほかの人と親しくならないように、せーちゃんが長い時間をかけて巧妙に仕組んできたのでした。
星さん宛てに、最後に彼が残した伝言のなかでいった、
「たぶん、俺、ちょっと、どうかしてるんだと思う」
という言葉に思わずキュンとしてしまいました。
…………あれ?
そうなんです。なぜかわたし、せーちゃんに肩入れしてしまって。
その気持ち、わかる気がする、と思ってしまうわたしはきっとヤンデレ予備軍……。
で、そのあと、収録されているほかのお話も全部読み終えてから、ああ、野田くんとせーちゃん、めっちゃ好きなキャラだなと思い返して、ハタと気づいたのですが。
野田くんとせーちゃん、同一人物やん! ←遅っ
真野さんが出会った野田くんは、事件のあと家を出て別の高校に入学したせーちゃんで。
見た目も性格も別人のように変わっていたので気づきませんでした。
瀬名さんも黒髪になっていて雰囲気が違ったので全然気づかなかった……。
そうだったのか、と納得しました。
でも、そうだとすると、今もまだせーちゃんを好きで、彼のことを想っている星さんが野田くんの前に現れたとき、彼はどうするのでしょう。
『その後の真野さん』のなかで、かつてのせーちゃんの片鱗が覗いているけれど、野田くんも真野さんに好意を持っているらしいのは間違いないし。
うーん。
真野さんも野田くんも星さんも瀬名さんも辻くんも、全員いいキャラでとても好きなので、誰にも悲しい思いはしてほしくないなと思うのです。
(2013年11/6 読書日記より)
***
【追記】
引っ越しの際にだいぶ本を手放しましたが、このまんがは今も本棚に並んでいます。
斎藤けんさんは、どシリアスなものからコメディまで幅広い作品を描かれていて、そのどちらも好きです。
シリアスものでは『花の名前』
コメディでは『かわいいひと』
がとくに好きです。
現在連載中の『天堂家物語』もおすすめです。