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和希そらというハート最強ジェンヌ

雪組公演「ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル(言えない)/FLOZEN HOLIDAY」宝塚大劇場の初日の幕が上がった。
当初の予定より3週間遅れの開幕。

彩風さんの涙を滲ませたご挨拶、苦境を乗り越えた雪組生のパフォーマンス、生田&野口先生の趣味とジェンヌへの愛を詰め込んだハッピーな舞台の感想レポでXが埋め尽くされ、「あぁ、公演期間ってこういうものだった」と思い出させてくれた。

本公演では3名の退団者が公表されている。
その中でも、とりわけ私にとって印象深いのは男役スター、和希そらさんだ。

和希そらさんは96期生、宙組配属でその後、雪組に組み替え。
ここ数年の活躍は目覚ましく、2度の東上公演主演(これができるジェンヌは限られる)を果たし、いよいよ人気が高まる中での退団報告。私の(そしてファンの)情緒は大いに乱れた。今思い返しても9月の最終週はジェットコースターのようだった。よく生き延びたな私。

話がそれた。
和希そらさんといえば小柄な体で俊敏に動くキレのあるダンス、張りのある歌声、男役では少年役から危険な魅力のあるクズ男(褒めてる)・渋いおじ様役までこなし、さらにマダム役から腹筋もあらわなクレオパトラにまでなれるというまさにマルチプレイヤーである。

宙組時代は我が贔屓・桜木みなとさんと「ずんそら」コンビとしてニコイチで使われることが多く、2人でMCを務めたトーク番組ではなぜか「先輩ゲストのお風呂の温度を尋ねる」という謎の風習を立ち上げ、それが後輩(優希しおんさん・鷹翔千空さんMC回)にまで受け継がれるという伝説となっている。

私は、ジェンヌに限らずアーティストや小説の作家などでも、好きになったらその人の人となりが気になってしまうタチである。偉人の伝記も大好きだし、ゲームの制作秘話とか垂涎ものである。あ、ハイ、性癖です。

というわけで桜木みなとさんにハマった私は、ずんそらがMCを務めるトーク番組をせっせと見て、先輩ゲストとMC2人の関係性に注目するのだが、和希そらさんのハートの強さに感服することとなった。
「あー、こういう子いるよな」と。
先輩相手に物怖じせず、ちょっと踏み込んだツッコミを入れても怒られるどころか喜ばれ、可愛がられる人。
因みに私はうっかり地雷を踏んで怒らせてはいけないタイプの人に執拗に嫌われるタイプである。自覚はしている。
顕著なのは真風さんゲストの回。
まず、真風さんの着てきた服のロゴ「TRUTH」をいじる。さらに当時のショー「HOT EYES」の真風さんの決め台詞「デンジャラスアイズ」を気に入って廊下で真風さんに出くわすたびに「デンジャラスアーイズ☆」とおちょけてくるというエピソードが語られる。

真風さんといえば星組で早くから抜擢されて、満を持して宙組に組み替えしてきた2番手である。
我が身に置き換えて、他部署で名を馳せたエースが異動してきてそんなに屈託なく絡みにいけるだろうか、なかなかできないと思う。
でもそれができてしまうのが和希さんなのだ。
真風さんも嬉しそうに笑って「バカだね」と受け入れている。
逆に異動してきた身からすると、遠巻きにされるよりそうやって無遠慮に絡んできてくれる存在がありがたかったりするのかもしれない、というかありがたい。
組み替えは確かに組織の風通しを良くするために必要だと思うけれど、異動する身としては独自のカラーやハウスルールに馴染むのに労力を要するのは、転職や異動を度々経験してきた我が身を振り返ってもそう思う。
他の先輩スター回でも、皆「そらならしょうがないかぁ」という空気が感じられた。

さばさばしていて、ちょっと抜けていそうなところもあって(寝坊エピソードや語彙力がないエピソードがたびたびある)、けれど思慮深く周囲を見ているやんちゃな弟。
もしかしたら彼女の本質は全然違うのかもしれないけれど、少なくとも宙組在籍時の和希そら像はそういうイメージで、こういう人材は本当に貴重だと思う。

そらさんの所属する96期は、かつて裁判沙汰になった期であり、当時のファンからのバッシングは相当激しかった、らしい。
(起きたことの質は違うし、当時はそこまで世間の関心は向いていなかったのでまったく今と同じではないだろうけど)
そんな中でも凛と前を向き、技芸を高めてファンを、周囲を納得させていった和希さんは、今また逆風吹き荒れる宝塚を、古巣である宙組をどう思っているのだろう。おそらく聡い彼女がそれを語ることはないだろう。
けれど彼女のパフォーマンスから、きっと伝わることはあると思う。

軽やかに「退職しまーす」いう彼女を周囲が全力で引き留める餞別シーンがあるという生田先生のお芝居、彼女が大好きなクリスマスのシーズンをイメージした野口先生のショー。
そしてついに背負ったという小羽根。
奇しくも彼女の宙組最後の公演は同じ生田&野口先生タッグだった。
彼女の集大成となる本公演が、このまま暖かい祝福に包まれて無事終えられることを心から祈ります。

そして、どうしてもこの話に戻ってきてしまうけれど、同じように懸命に努力してきた彼女たちが舞台に立って、観客と心を通わせる機会を得られることを願っています。

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