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74 郷愁タビゴハン② 麺類 東南アジア篇
前回は "美味しかったご飯もの1位から5位" などという書き方をしたけれど、実のところ順位は曖昧。飛び抜けて気に入った一皿なり一碗、一杯もあるにはあるが、ま、堅いこと言わずに印象深く美味しかったものをランダムにあげていけばいいのではないか。
ということで今回は、
郷愁タビゴハン②【麺類 東南アジア篇】
で、麺類、さほど好きではない。すぐ満腹になってしまうから。
でも、アジアの旅先ではけっこう食べた。東南アジアの麺料理はお腹にやさしい米の麺が多く、一食の量も少ないから食べやすい。
という具合に、アジアの麺を意識し始めたのは1996年のミャンマーで、
ヤンゴンの道端の混ぜ麺。
ミャンマーの道端屋台椅子は風呂の椅子みたいに低い。食材、食器は地面に直置き。しかし、何やら旨そうなものを見つけたので座ってみる。
と、おばちゃんがボウルにきしめん状の平麺を入れ、上から厚揚げ(のようなもの)、葱(のようなもの)、ゆで玉子、トマトをハサミでぢょきぢょき切り落とし、アルミレンゲで鍋から液体を振り入れた、と思ったらやにわに素手で、もにもにと和え始めた。
素手か!と、一瞬怯む。
が、笑顔とともに差し出された品を食べないわけにはいかぬ。
いただきます。
よく和えられ盛られた混ぜ麺は初めての美味しさだった。タレはほどよい辛さ、複雑な塩気、不思議な取り合わせの具材、それらが平麺によく絡んでいる。素手でしっかり混ぜ混ぜされてるからね。必然的に常温。
ミャンマーに関してはあらゆることが正確な情報に乏しく、いまだにその麺料理の名前はわからない。
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それにしても、おしなべてミャンマーの麺料理の味は素晴らしい。
ことに印象に残っているのはパテインの市場のモヒンガ。
モヒンガは細い米麺の温かい汁麺で、スープはお魚の出汁。チリフレーク(唐辛子ふりかけ)を自分で振り入れて辛味調節。どこの屋台でもおいしいけれど、パテイン市場のは、なんだろう揚げ豆腐みたいなのとか、もやしとか、具を沢山のせてくれて格別だった。
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さて、場所はタイに移って、タイの麺ならカノムチーン。
米麺にケーン(いわゆるタイカレー)をかけ、テーブルに山積みの野菜を自由に盛る。麺も汁も常温。だいたいどこの屋台でも美味しい。
バンコクにいるときは、タンフアセンデパート入口の脇の屋台のを、二日に一回ぐらい食べる。
でも、スリンの市場のカノムチーンは衝撃だった。
ケーンはレッドかグリーンを選べて、どちらもとろりと濃くて辛い。お魚の練り物入り。取り放題のトッピングは、揚げた赤唐辛子、生もやし、サニーレタス、パクチー、ミント、バジル、青葱、クレソン等々、何種類もの生野菜。
美味しいうえにおばちゃんの愛想が良くて、日に一度、それを食べるためだけに、暑いばかりで何もないスリン(年に一度、象祭りってのがあるそうです)にとどまり続けた、ある年の旅だった。
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野菜取り放題ならラオスも良い。
首都ビエンチャンだとタイを真似たフードコートなんかがあって、エアコンが効いた中、こぎれいなテーブルでシュッと食べることができる。けど、田舎の市場の屋台が断然旨い。とくに美味しいと思ったのは、パクセ市場の屋台。
暑くてへろへろの身体に、出来立て熱々の汁麺。めちゃくちゃ辛いチリフレーク、生野菜を好きなだけのせたお値段以上のクイティヤオ。
汗と鼻水を拭きながら食べ終えて、別の屋台で氷とコンデンスミルクたっぷりの甘甘ラオコーヒーをストローで吸う至福。
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生野菜を好きなだけ、といえばベトナム、ハノイのブンチャーも、そう。
ブンチャーは米麺の冷やしつけ麺。つけ汁は甘酸っぱいニョクマム味で、蒸し暑いハノイではその酸味の爽やかさに救われる。
ただ、ブンチャーの主役はスペアリブ。麺の上にお肉の塊がのっていて、野菜はテーブルにある笊から自分で取る。肉食わずのわたしはスペアリブを同席者に差し上げ、麺と野菜だけいただく。
野菜は、サニーレタス、ミント、パクチー、青葱ぐらいまではタイやラオスと同じで、決定的に違うのが、ドクダミ。
ドクダミを薬味として使う、という食文化は、尊重するが受け入れ難い。あの匂いは、もう、ぜったい駄目・・・。
生野菜取り放題とはいえドクダミを入れてしまうと地獄なので、葉っぱ類が無造作に放り込まれた笊をよく見て、ドクダミ以外を摘まなければならないという用心深さが、ブンチャーには、必要なのだった。
さて。
東南アジアの麺ではやっぱりマレーシアのラクサを外せないのだけど、マレーシア食については何度も書いているので、ここでは省略。
そして、なんだか長くなったので続きは次に。
【麺類 中国大陸篇】へつづく