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本の値段

あるネット書店で、ある出版物へのレビューが目についた。
曰く、「この値段なら大手の本が買える、阿漕な商売をするな」
なんともいたたまれない気持ちになった。
この人の感覚は、多くの日本人が持つものなのか。

前職時代、本の価格は編集者が計算し、役員や営業を含めた会議で決定していた。
役員はなぜかいつも価格を下げたがった。
そのために「外注費を下げさせろ」という。
そんなことを続けていたら、外注先はやる気を削がれないはずがない。
安くすれば売れるだろう、そんな考え方の会社が出す本の仕事、頑張れるだろうか。
価格を安く抑えたら、頑張ってその一冊を売ってくれる書店さんの利益まで減るんじゃないのか。

決まった価格を著者に伝えたら、「高いよ、そんな値段じゃ売れないんじゃないの? あの本くらいの値段にしたほうがいいんじゃないの?」と言われることもあった。
印税率を下げていいよとは言われないし、そもそも下げたいとも思わない。
それも何か間違ってる気がして。
もちろん売れないとは言わないけれど、そもそも、その本を必要とする人全体の数が少なければ、価格は下げられない。専門書の価格は全国の書店に平積みで並ぶような、一般書と同じようにはできないと説明する。

または発行後、ネットレビューなどで「高い」と書かれる。
仕方ないのだけど、そのたびやりきれない気持ちになった。

本って値段で選ぶものだっけ?
小部数の本はいらないってこと?
そんなこと言ったら、みんなが同じ本を読まないといけないってことになる。
業界関係者や、文フリとかコミケなどに参加したことがある人ならわかることでも、それは決して多数の感覚ではないのかもしれない。
でも、でも、である。
うまくまとまらないけど、安いから売れる本なんてあるだろうか。
限度こそあれ、そこじゃないと思う。

失われた30年という言葉、ときどき経済情報番組なんかで聞く。
日本人の給料はずっと上がってないし、物価も異常なほど上がっていないという。
本に対する感覚もそういうことなんだろうか。
本の価格に対するこの感覚が変わらない限り、なにかが失われてしまう気がして仕方ないのに、情けないことに先述のレビューに堂々と反論することもできない。


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