熱に浮かされて
じりじりと肌を焼こうと日差しが降り注ぐ、夏が始まる真昼間に。
なぜ私はクーラーのきいた部屋でおなかをすかせて、網入りの窓ガラス越しに青空を眺めているのだろうか。
答えは簡単だ。数年前から猛威を振るい世界を襲っている「コロナウイルス」に感染した。これで、二度目だ。
今となっては仕事は休みにならないし、特別手当が出るわけでもない。
それでも羅漢者の辛さは変わらないのだからやってられない。
片手に冷えた水。
片手には熱さまシートを握りしめ、本日何度目かわからない吐き気にトイレへ駆け込んだ。
体がだるい。クーラーをかけているのに暑い気がする。そのくせ鳥肌が止まらない。
何より喉がやられたらしい。声が一切出ない。水を飲みこむのがやっとだ。
これなら風邪が酷くても食べられるだろうと、事前に買い込んだゼリーすらしんどい。
ふと、このままなにも、飲まず食わず、熱も冷まさず床に転がっていたら、すべてのことから解放されるのでは、と。
完全に熱に浮かされている脳裏を過った妄想に、より一層鳥肌を出しながらなんとかベットへ戻った。
結婚もしていない。いい人もいない。実家は関西と関東という何百キロか離れた距離。ついでにいうと助けに来てくれるような友人もいない。
―さすがに、しんどい。
また外で学生の元気な声が聞こえる。
私の家の前は通学路になっているため、結構な人通りと車通りがある。
最悪窓から叫べば何かしら助けは呼べるとは思うが。叫ぶことができれば、の話だ。
大人・社会人・女一人・古びたマンション・・・ついでに現実問題、声の出ない喉。
様々な要因が重なって無駄なプライドがそうはさせまいと、眠りかけた脳を無理やり起こしてしまう。
いや、病人は寝ないと治らないけれども
わかってはいるが、いかんせん、まともな状態ではない今、一度起きた意識がもう一度眠りに入りきる前に、もう一度トイレへ駆け込んだ。
・・・・さすがに、しんどい。
体力をつけようと(そういう問題ではないのかもしれないが)少し冷えたフローリングに誓った。
・・・・・・助け合える人を探すのも一興かもしれない。
だめだ、まだ、熱があるかもしれない。
握りしめていた熱さまシートをおでこに貼って、ついでに床を這って、そうしてたどり着いたベットでやっと眠りについた。