見出し画像

我が家の紅白歌合戦

 幼い頃の思い出に、我が家の紅白歌合戦、というのがある。正真正銘、真の歌謡曲好き、さらに言うなら『歩く昭和歌謡』、そんな三つ年上の兄が、私が物心つく頃に始め、数年間続いた。

 先ず、家中のぬいぐるみだの人形だのを、次々とかき集める。何かしら生き物の形をしていれば、歌手として出場可能だ。それを、独断と偏見で、男女、白組紅組に分ける。ちゃんと数を合わせて、「さぁ紅白歌合戦の始まりでーす」兄のかけ声。身振りで「拍手、拍手」と指示が出る。兄はカセットテープに録音しているのだ。

 おそらく『宣誓』もした気がする。何に何を誓ったのか、全くわからないけれど、ホンモノの紅白歌合戦を真似て。そして、そこからは「トップバッターは◯◯さん。張り切ってどうぞー!」「さぁて、次は△△ちゃんでーす」と歌合戦が始まるのだ。

 全ての楽曲を、作詞、作曲、歌唱まで一人でこなす。我々兄妹はたちまち即興のシンガーソングライターと化す。馬鹿げているようだが、これはこれで楽しかった。

 最初のうちは…。

 幼い私は、程なく飽きる。疲れてくる。だって私、小さいんだもん。幼児の集中力が続くのは、五分ほどと言われている。私はかなり頑張った方だと思う。

「やめるー」
「ダメだ!」
「一人でやってよぉ〜」
「ダメ、紅白歌合戦なんだから、最後まで」

 兄は譲らない。もうここからはヤケクソの惰性だ。さっきあんなに『歌手』を集めたことを後悔するが、もう遅い。一体ずつこなしていく、やっつけ仕事の始まりだ。元々適当に歌をでっちあげているのに、その適当さ加減にさらに拍車がかかる。でも、とりあえず、続けてさえいれば兄は上機嫌だ。

 だがしかし、その時は必ずやってくる。

 私は、泣く。もーイヤだーと。言い方を変えれば、泣くまでやらされる、ということ。『上の子ハラスメント』を涙ながらに訴え、ようやく母が出動、彼が成敗されるまで。

 しかし、一つだけ不思議なことがある。人気者や大物歌手(この場合、よく遊ぶぬいぐるみや、生まれた時からすぐ近くにいた子など)に、後々まで歌い継がれる(兄妹の間で)名曲が生まれたりするのだ。

 あれだけ適当に歌ったにもかかわらず、私、ひょっとして、天才?
 我が家の紅白歌合戦のフシギ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?