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インコの赤ちゃん、命名『ガブリエル』〈後半〉
少しずつ成長するガブは、親(飼育人)の私が言うのもなんだが、賢い。どことなく落ち着いていて、私の言葉がわかるのかも知れない、と思わせる風情がある。そのせいか、ガブが自分で餌を食べるようになってからは、私はガブを自由にさせたくなってしまった。
そこで導入されたガブの飼育方法は、半分放し飼い。
一定のリズムでピィピィと鳴き続けるのは、外に出たいという合図。扉を開けてやると、パーっと飛び出して滑空する。正式には滑空ではない。パタパタと羽ばたいて、天井すれすれを飛ぶ。
ぐるぐると、一頻り飛んで気が晴れたら(晴れているかどうかはわからないけど)カーテンレールに留まり、嘴で壁をゴシゴシする。そしてもう一つのカーテンレールへ飛び移り、またゴシゴシ。それにも飽きたら、私の頭へ飛び乗ってくる。
光るものが好きで、ネックレスなんかしていたら、飛びついてカミカミする。チェーンの一つ一つを、まるでお坊さんが数珠の玉を一つずつ繰る様に、順番にカミカミカミカミ。
いよいよ全てに飽きると自分で鳥籠へ戻って、水を飲む。
そんなコミニュケーションの取り方で、私たちは比較的自由な間柄で同居している感覚だった。
気づけば、ガブの鼻は綺麗な青色に変わっていた。
オスは言葉を覚える可能性がある。私は、名前や挨拶、どこかに飛んで行ってしまった時のために、住所も教えた。歌も歌って聞かせた。
ガブは、だんだんお喋り上手になり「ガブちゃん」「おはよ」はお手のものになった。住所はちょっと怪しかったけれど。
言葉を覚える時は、必ず鳥籠の中の定位置にやって来る。そして、何故か決まって逆さまになって、ジーッと私の声を聞いていた。そして、およそ1週間後にその言葉を話し始めるのだった。やっぱりこの子天才かも⁉︎(親バカでしょうか)
そしてもう一つの驚きは、鳥籠に敷いた紙が、時折、細く丁寧に折り畳まれていたことだった。どう考えても、嘴で少しずつ紙を折って、足でペタペタ踏んだとしか考えられない。その出来栄えは、まるで几帳面な人が折り紙を折ったみたいに、美しかった。
どうやって紙を折っているのか、その姿をビデオに収めようと何度か試みたが、こちらの気配に気づくと、直ぐに辞めてしまうのだ。
「決して覗いてはいけません」
と言われる事はなかったが、まるで鶴の、いや、インコの恩返しだ。
結局、紙を折る姿を確認することはなかった。
ガブがいなくなって、ずいぶん経つ。ガブ、ウチの子で幸せだったかな?少なくとも、私たちは、お陰でとても楽しかった。ガブが止まり木のようにしていたカーテンレールのある壁を見上げると、嘴で削った跡が今もちゃんと残っている、確かに。
ガブリエル、わが家に来てくれて、ありがとう。
今もどこかでパタパタと羽を鳴らしながら、自由に飛び回っているような気がする。「ガブちゃん、おっはよ」ってお喋りしながら、時々ペタペタと折り紙を折って。