魅惑の赤い円筒形、『五勝手屋羊羹』
今や全国に名を馳せた『五勝手屋羊羹』だが、ここにご紹介する。
半世紀近くも前のこと。父が新聞記者である傍ら、ノンフィクション作家としても活動を始めた頃だ。北海道内を皮切りに全国に残る伝承や祭、歴史上の事件、あるいは歴史に埋もれたままの出来事を、休日を利用し果敢に取材して回っていた。そして帰りには、何かしらお土産を買ってきてくれたものだ。
数ある土産品の中でも思い出深いのが、函館から渡島半島を横断した日本海側にある江差という町の羊羹である。
直径3センチ、長さ12〜3センチほどの円筒形。その筒は『五勝手屋羊羹』の文字の下にローマ字表記もされた鮮やかな赤い紙でピタリと巻かれている。少し古風な、しかし、かっこいいデザインは、今で言う、パケ買いしたくなる雰囲気を十分に醸し出している。
形状が既知の羊羹ではない上に、食べ方が未知なるものだった。
上蓋を外し、赤い紙の下に隠れた糸を取り出す。この時、糸が筒から外れないよう注意。次に、筒の上の方、内側で固まっている部分をほぐすため、横からつまむように若干強めに押す。そして、いよいよ筒の下からぐーっと中身を押し上げる。先頭はシャリシャリと音がするほどのお砂糖だ。押し出されてきた部分を、先ほどの糸でくるりと切って、頂く。
美味し〜い
インパクトのある見た目に、この一連の作業と抜群の美味しさ。子どもの私でなくても、あっという間に魅了され、目がキラキラ輝いてしまうはずだ。
私は、父が持ち帰るこの土産を待ち望み、その後も五勝手屋羊羹への気持ちを変わらず温めてきた。
年々、デパートなどでも取り扱われるようになり、現地に行かずとも入手可能となった。今や通販でも購入出来る。
先日、札幌への帰省の折、とうとう最寄りのスーパーで売られているのを発見!こんなに手軽に入手出来て良いのか?と驚きながら、お宝を見つけた気分でウキウキと3本入りの一箱を自宅への土産とした。
和菓子大好き長男はもちろん、あんこ苦手次男も“これはいける”と、我が家の人気商品だ。
昨日、少しだけ食べようと思ったら、アクシデントが‥
もうひと押ししたいが、指が届かない。そんな時は、ちょっと太めのお箸なんかを使うのが通常。ずぼらな私は、手元にあった鉛筆(キャップ付き)で押した。しかし押し方が悪く、グニャっと底蓋をナナメに押し上げてしまったようだ。
いけない!
苦戦の末、やっと綺麗に整えた、と思ったら一本平らげていた。そんなつもりはなかったのに‥慌ててカロリー表示を凝視、ちょっと凍りつく。
相変わらず最高に美味しかった抜殻の赤い筒を、そっとゴミ箱へ証拠隠滅。しかし、帰宅した長男が、羊羹が1本減っていることにすぐに気づく。
あっ!
えっ!気づいた?
ごめん、これには理由が!と、最後の一本をすかさず差し出した。
五勝手屋羊羹への愛は、長男へ、きっちり受け継がれていた。