従兄弟のヨシ君
先日、久方ぶりに従兄弟のヨシ君に会った。何年振りかも分からないほど、我々はずっと会うことがなかった。
ヨシ君は6歳年下。野球に夢中だった。高校では甲子園を目指し、親戚一同、彼の活躍を応援していた。甲子園の夢は破れたが、心底野球に打ち込んでいたことは、疑いようがない。クリクリ坊主頭の、野球少年だった。
私が小学六年の時、我々家族はヨシ君の住む街、札幌へ引っ越した。比較的近くに住んでいたので、当時はかなりの頻度で会っていたと思う。ヨシ君には2歳上の姉がいて、我々兄妹、ヨシ君姉弟はいつも一緒。私は2人を妹、弟のように思っていた。可愛かった。
そんなヨシ君が、先日、我が実家にやって来た。ヨシ君家族全員と叔母、そして新しく家族になる青年を連れて。ヨシ君には二十代の娘と息子がいて、この度、東京に住む娘の結婚が決まったと、わざわざ私の両親に会わせるため、訪問してくれたのだ。私はたまたま実家に居合わせて、遭遇した。
従姪、従甥は小さい頃の面影を残しつつ、素晴らしく素敵に成長していた。大袈裟でなく、キラキラに輝いてみえた。結婚相手の青年に至っては、知らないお爺さんの家までつれてこられて、さぞ困惑したことだろう、にも拘わらず、常にハキハキと相手の目を見て話す様子に、惚れ惚れするほどの誠実さが伺えて、この方なら安心、と嬉しく思った。
話は遡るが、ヨシ君に関して、どうしても忘れられない思い出の事件がある。ヨシ君は一年生だった。その名は『アイスキャンディ事件』
その日、お馴染みいとこカルテットは、私の父の車で小樽方面へドライブ、文学碑を巡っていた。父はそういう場所に、我々子どもたちを連れて行くことが多かった。あちこち回って、ちょっと休憩しようと、父が皆にアイスキャンディを買ってくれた。当時のミルクのキャンディは、溶けやすかった。
みんなペロリと平らげて、さぁそろそろ車に戻って帰ろうか、という段になって、ヨシ君の手元に気づく。アイスキャンディが今にもベトベトに溶け出しそうになっているではないか。ヨシ君早く食べなさい!と皆が言うと、ヨシ君は、「もらったものは、お母さんに見せてからじゃなきゃダメなんだよ」と今にも泣き出しそうな面持ちで言うのだ。
なんと真面目な子か。
こんな小学一年生いるだろうか。
父が、「おじさんが、ちゃんとお母さんに伝えるから、食べていいんだよ」となだめても、ヨシ君は一向に食べようとしない。いよいよキャンディが滴りはじめ、皆が注目する中、ヨシ君はやっと口にしたのであった。
そのヨシ君が、実に律儀に礼儀正しく、我が父90才、母87才に「遠方ではありますが、来年の結婚式には、是非、叔父さん叔母さんも出席してやってください」と頭を下げた。
アイスキャンディ事件を思えば、彼は幼少期から正しく躾けられ、そしておそらく野球人としても、礼を重んじる心を育み、これまでの人生を歩んできたのだなと感じた。
私は、あのベトベトキャンディと、小さいヨシ君を思い出しながら、今は父親として、間違いなく幸せそうなヨシ君の横顔を見ていた。我が両親も、結婚式参列という新しい目標ができ、既に元気が湧いてきている。
ほんのひと時ではあったが、この日の再会は、ほんわかと心に沁みる思い出と、夢多き新しい未来につながる道、その両方に出会えた、豊かな時間となった。