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【歌詞語り】太田裕美「さらばシベリア鉄道」~「12月の旅人」に捧ぐ

太田裕美「さらばシベリア鉄道」
発売年:1980年
作詞:松本隆
作曲: 大瀧詠一

哀しみの裏側に何があるの?
涙さえも氷りつく白い氷原
誰でも心に冬を
かくしてると言うけど
あなた以上冷ややかな人はいない

君の手紙読み終えて切手を見た
スタンプにはロシア語の小さな文字
独りで決めた別れを
責める言葉探して
不意に北の空を追う

「さらばシベリア鉄道」作詞:松本隆

「木綿のハンカチーフ」同様、男女の掛け合いによる構成の歌詞です。
女性は一方的に別れを告げ、北の空=ロシアにまで旅立ったようです。

この線路の向こうには何があるの?
雪に迷うトナカイの哀しい瞳
答えを出さない人に
いていくのに疲れて
行き先さえ無い明日に飛び乗ったの

同上

「線路」「飛び乗った」という語句から、この女性は、表題の「シベリア鉄道」に乗っていることが明白となります。

ところで、この女性は、男性から離れる手段として、何故「鉄道」を選んだのでしょうか。もしモスクワを目指しているのなら、飛行機を乗り継いで行けばいいものを、何故わざわざウラジオストック(もしくは他の都市)から鉄道に乗ったのでしょう(なお現在は、世界情勢も鑑み、モスクワにもウラジオストックにも、渡航することは推奨されてません)。

https://skyticket.jp/russia/#:~:text=日本からロシアへの渡航について&text=成田空港からモスクワへ,ほどのフライトとなります。

「答えを出さない」というこの男性を振り払うべく、「行き先さえ無い明日」を選択したものの、それでも地に足のつかない「空」を通るのではなく、「大地の上」という何かしらの「安定」をも求めてもいたから、と推察します。「答え」そのものでないにしても、「答えに向かう、目に見える何らかのプロセス」を欲していたのか、と。

しかし、曲調とも相まって、この女性は、物理的にも精神的にも、ものすごいスピードで男性から離れていっているように見えます。それでも男性の方は、まだまだ思いが断ち切れていないようです。

ぼくは照れて愛という言葉が言えず
君は近視まなざしを読みとれない
疑うことを覚えて
人は生きてゆくなら
不意に愛の意味を知る

同上

「言葉にせずとも察してくれ、信じてくれ。それを疑うことが君のいう『愛』というのか?」と。「独りで決めた別れを責めて」ますねぇ。。

そして

伝えておくれ
十二月の旅人よ
いつ……いつまでも待っていると

同上

と、こちらは気持ちはまだまだ離れていません。

しかし「十二月の旅人」とは誰のことなのでしょうか。

この男性の知り合いで、しかもロシアの地にいる、という人かも知れませんが、そんな現実的な存在ではないと思われます。「待っている」と伝えては欲しいものの、それが叶うはずはないことも分かっているので、非現実的な「十二月の旅人」に想いを託す他ない、といったところでしょうか。

ところで。2021年11月5・6日に、松本隆さんの作詞活動50周年を記念するイベント『風街オデッセイ』が開催されており、筆者はそれをWOWOWで視聴しました。その際に、太田裕美さんが「さらばシベリア鉄道」を披露されましたが、これが圧巻のパフォーマンスで、心に深く刻まれております。

太田さんが歌う「伝えておくれ」のフレーズが、この歌に描かれている「恋歌」という概念をも超えて、この曲を紡いだ大瀧詠一さんへの強い想いを乗せているように思えました。「多くの人が松本さんの50周年を祝ってる。この素晴らしい情景が大瀧さんにも届いて欲しい」と言わんばかりに。

本日12月30日は、大瀧詠一さんの命日です。亡くなられた際に、松本さんは以下のように弔っていました。「十二月の旅人」は大瀧さんその人だったと。そんなことを思いつつ、過ごす年の瀬でございます。


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