【歌詞語り】竹内まりや「SEPTEMBER」
竹内まりや「SEPTEMBER」
発売年:1979年
作詞:松本隆
作曲:林哲司
移り行く季節と共に、心変わりしてしまった男性と別れを告げる失恋ソングなのですが、儚くも美しい情景に心酔わされる名作です。様々な切り口はありますが、本稿では「色合い」「紙の辞書」に焦点を当てて語って参ります。
「からし色」て。「からし色のシャツ」を着ているのは男性で、心変わりをしてしまったので「年上の人に逢」いに行ってるのを、こっそり付けてみているのですが、「からし色」とは斬新な色合いです。
秋の色をイメージして、のチョイスなのでしょうが「春色の汽車(松田聖子・赤いスイートピー)」「映画色の街(松田聖子・瞳はダイヤモンド)」と、松本隆さんの生み出す「独自色」とはそれこそ色合いを異にしております。
色の件は後述するとして、続いて「別れ」を伝える術なのですが、、
もう、ねぇ。こんなやり方、どないしたら思いつくねん、という松本隆さんのマジックが冴えすぎ!と感嘆が止まりませんが、今一度このフレーズを反芻してみます。
勿論これは「紙の辞書」であります。そこから「LOVE」という項目だけ切り抜くのですが、分厚い辞書の中の1ページ、1項目だけが切り抜かれても、おそらくすぐには気づかない、ましてや「LOVE」という基本単語をわざわざ辞書で引く、ということはまぁないでしょう。
しかし、そうだとしても、「二人の関係に『LOVE』は無くなってしまった」ことを伝えようという、精一杯の表現方法なのでしょう。そうだと分かってもらえなくても、、と思うと、粋でもありますが、何だかいじらしくも思えます。
こうして、この男性と別れることを決意した女性は
と結ぶのですが、「トリコロールの海辺の服」とはどんな服なのでしょう。
トリコロール=フランス、だとして、フランスの海辺が描かれた服、なのか、二人で行った海辺で買った、3色ベースの服なのか、、不確かなではありますが、ひとつ明確なのは、上述の「からし色」とは対極のものであります。どんな服なのか、という具体的なことはさておき、とにかく二人の思い出の服と、この男性の服の色が「対極」に変わっている、ということが、ここでは肝要なのです。
この男性は、トリコロールの海辺の服ではなく、今は「からし色」のシャツなんか着てしまってる、ということでしょう。「着ることはない」の主語は、女性でもあり、男性でもあるのだと解されます。
しかし、わずか4分の間で、色彩豊かに、かつ小道具も粋に活かして心情描写もして、物語も展開させる、、一編の映画でも見終えたような気にもさせられる、傑作です。
9月になっても、なかなか秋へと移ろいませんが、季節はいつか必ず移ろっていきます。しかし、人の心は移ろうものもあれば、そうでないものもあるとも思ってます。