陰の実力者になりたくての「物語」






1「陰の実力者になりたくて」の物語構造 


「陰の実力者になりたくて」は2022年に一期、2023年に二期が放送された。このアニメはヒーローでもヴィランでもなく、物語に陰ながら介入し、実力を見せつけていく存在「陰の実力者」に憧れた少年シド・カゲノ―が現代日本から魔法のある異世界に転生し憧れを叶えんとする物語である。
表では「シド・カゲノー」として、裏では「シャドウ」として行動する主人公と、彼を慕う「シャドウガーデン」、敵対組織である「ディアボロス教団」、学園生活中で出会うヒロインたち、主にこれらが物語を構成している。これだけ見ると「よくあるなろう系アニメじゃん」と思うのだが、この「陰の実力者になりたくて」は他のなろう系と一線を画す。ギャグとシリアスが混在しているのだ。

シャドウ     陰の実力者”ごっこ”を楽しむガーデンのトップ 

シャドウガーデン  ディアボロス教団を撲滅する為に活動する悪魔憑き(ディアボロスを倒した英雄の子孫で女性にしか発症せず、治療法は無いとされていた所をシャドウやガーデンの最高幹部である七陰に助けられた)の集団。ディアボロス教団を撲滅する為に活動するシャドウ(彼女たちはそう思ってる)を崇拝している。

ディアボロス教団 魔人ディアボロスの復活と、ディアボロスの力の私物化を目的とするカルト教団。 

学園生活の中で出会うヒロインたち 物語が進むにつれて裏社会で蠢くガーデンや教団の存在を認識し、それらから国を守ろうとしたり、復讐を誓ったりする。

お気づきになられただろうか?一人だけシリアスな物語に相応しくない場違いな”男”がいる。そう、主人公のシャドウ君だ。こいつが場違いなお陰で(陰だけに)この作品は唯一性を獲得する。


私達と彼ら彼女らの構図


シリアスな話を繰り広げるガーデン、教団、ヒロイン
事情を知らないままごっこ遊びに興じるシャドウ
事情を知らないまま介入するシャドウを見る私達

シャドウは知らず知らずのうちに物語に介入し、やることなすこと全てが物語の解決へ繋がる存在、つまり、デウスエクスマキナ的に描かれているということだ。ここで重要になるのが物語を解決に導いたにもかかわらず、シャドウは物語を知らず、それゆえ解決したことも知らないという点だ。これによってシリアスの中にギャグが詰め込まれ、この作品にしかない面白さが生まれていると僕は思う。
ただ、この作品にしかない面白さと断言するにはいささか軽率すぎるような気がするので類似作品との比較をしたい。

2類似作品との比較

「陰の実力者になりたくて」に似ている作品と言われがちな「オーバーロード」と比較しようと思う。
まずは共通項目を挙げてみる。

・主人公デウスエクスマキナ的な存在として描かれている。
・シリアスなストーリー
・主人公が最強(アインズには同格の味方がいるが、一番相性の悪いシャルティアに勝っているので最強ということにしておく)
・部下から崇拝されている
・敵対組織がある
・何も知らない表社会のキャラクター(物語が進むにつれて裏社会の存在を知る)
大体こんなもんだと思う。
似ている作品と言われがちなことも頷けるシンクロ率だ。ただし、先ほど陰の実力者になりたくての唯一性として挙げた「物語を解決に導いたにもかかわらず、物語を知らず、それゆえ解決したことも知らない」という点においてこの二作品は相違がある
アインズは部下から計画を知らされて物語を解決に導くが、シャドウは計画を知らされてもその計画を”ごっこ遊び”だと思い込んでいるので実質物語を知らないのと同じである。
この些細な違いが陰の実力者になりたくて特有の面白さを生んでいる

3結論


シャドウは何も知らない。ごっこ遊びをしているだけで知らないうちに物語を解決に導いている。自分の行動が物語にどういう影響を与え、その影響によって物語がどんな結末を迎えるのかを知らない。だからこそガーデンや教団、ヒロインたちとすれ違い続ける。そして誰もすれ違いに気づかない。この誰もすれ違いに気づかない、すれ違いが起きてるなんて夢にも思っていないことがギャグの面白さを際立たせている。
「面白さが際立ったギャグ」と丁寧なシリアスストーリーが”同時に”襲い掛かってくる。これが陰の実力者になりたくての唯一性であり、この作品の面白さの最も大きい部分であることは間違いない。









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