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【DESTINATION】プロローグ1 はじまりのタネ



 かつて、この世界は「無」だった。

 生命はおろか、時間の概念、変化がしょうじる空間、有形物をつくり出す物質、人の想い、夢や希望、過去や現在、そして未来。

 意味あるものはなにひとつ存在しない、世界とすら表現できない、人間には到底理解できない究極の「無」。

 現在より約138億年前、その「無」に、やがて銀河形成へとつながっていく、はじまりのタネ「ゆらぎ」が誕生。

 生まれたばかりの「ゆらぎ」は「無」に対して10万分の1程度の大きさ。肉眼ではもちろん、現代の最も優れた顕微鏡でも見えないほど小さなもの。

 この小さなタネは、無限に広がる闇に光を照らすため、なにかをつくり育てるため、産まれては消え、また産まれては消えを繰り返す。

「無」の力に何度かき消されても、何度つぶされても決してあきらめず、倒れるたびに少しずつ強く産まれ変わり、強大な闇にひとり立ち向かっていった。

そんなあるとき、奇跡が起きる。

 絶対に消えまいと反発する「小さな勇者」。それを消そうとする「無」の力。

 互いのエネルギーが激しく押し合う力によって、過冷却かれいきゃく現象が起こり、両者のあいだにわずかな空間が発生。

 ゆらぎは、その空間と自分に蓄積されていた「無」のエネルギーを一気に開放したことで熱い火の玉に変化。

「夢を夢で終わらせまい。光あふれる世界をつくりたい」。一途いちずな想いを胸に秘め、熱く激しく燃えさかる。

 火の玉となった「ゆらぎ」は、しだいに大きくなり、0.4mmまで成長。

 そして、光速をも超える速さ(シャンパンの気泡1粒が、0.36秒のあいだに太陽系以上の大きさになる速度)で12万倍にまで急膨張し、超高温・超高密度の大爆発「ビッグバン」を起こす。   

これが宇宙のはじまり

「ゆらぎのカケラ」

 西暦1992年。

 宇宙開発先進国「アルメニカ」にある「ヴァール研究所」が、遠く宇宙の彼方かなたより、あらゆる方向からやってくる「電磁波」を観測。

 それから約2ヶ月後、アルメニカ航空宇宙局こうくううちゅうきょくは、無人探査機「トビー」を打ち上げ、電磁波を発する「ゆらぎのカケラ」を採取。

 発見された「カケラ」は合計9個。

 これらをそれぞれ解析した結果、宇宙の年齢(推定年齢は114億年から138億年)や、空間の曲がり方を測る数値「宇宙の曲率きょくりつ」などが明らかとなった。

 さらに、遥か昔の「宇宙」は密度が高く、星が一瞬にして消滅するほどの超高温状態(100兆℃から1000兆℃)だったが、ビッグバンによる急膨張で、マイナス270℃まで冷却されたことも判明。

 この世紀の大発見から「ビッグバン宇宙誕生説(ゆらぎが宇宙大規模構造のタネであるという説)」が世に広く認められ、宇宙物理学は新しい大きな一歩を踏みだしていく。

 その後も人類は研究を積み重ね「宇宙を構成する三種類の物質」を確認。だがそれは、宇宙全体にある物質のわずか5%未満でしかなく、9割以上が未解明。

「通常物質」

 人類が観測できた物質のひとつが「通常物質」。

 これは「バリオン」とも呼ばれ「陽子」「中性子」「電子」からり、目に見えるすべての物体を構成。

 惑星やそのほかの星々、木、動物、人間など、目で確認できるもの、形あるものをつくっているのは、すべてこの通常物質。

「ダークマター」

 ダークマターは、光やエネルギーを放出・吸収しない完全不可視の物質。

 宇宙の所々ところどころかたまりとなって浮遊・点在しており、銀河や銀河団に集まってくる性質をもつ。

 質量をもち、動きまわってはいるが、光や熱を出さないため、目で見るどころか赤外線やX線などでも観測は不可能。科学が進歩した現在でも、その正体はわかっていない。

 直接観測することはできないが、天文学者のあいだでは「重力効果によって通常物質をつなぎ止める役割を果たすもの。もしダークマターがなければ、銀河はバラバラになってしまうのではないか」と考えられている。

「ダークエネルギー」

 宇宙全体に均等に分布し、その大部分を満たすものではあるが、物質なのかすらわからない仮説上の未知のエネルギー。

 物質同士を引き離し、宇宙を膨張させる力をもつのが、この「ダークエネルギー」だといわれている。重力で互いに引き合う性質のある「ダークマター」とは対極の存在。

「三物質の構成比」

 人類が2003年におこなった「ゆらぎのカケラと宇宙」のさらなる研究・観測では「ダークマターが23%」「ダークエネルギーは72%」このふたつが宇宙全体の95%を占め、残りの5%を「通常物質」が占めていると解明された。



「宇宙空間」

 宇宙空間には音の振動を伝える物質(酸素など)がなく、無音の世界が延々と広がっており、どんなに大きな音を出しても、人間の耳で聞きとれる音量にはならない。

 しかし、厳密には完全な真空状態ではなく、わずかに分子があるため、気温は存在する。

 ほぼ真空状態の宇宙では、空気による冷却作用が機能せず、日なたの温度はプラス120℃にも達し、日陰の温度はマイナス150℃まで下がる。日なたと日陰では、じつに200℃以上もの温度差が生じる。

「銀河」

 銀河とは、数百から数千個の恒星こうせいやコンパクト星、ガス状の星間物質せいかんぶっしつ宇宙塵うちゅうじんと、正体不明の暗黒物質(ダークマター・ダークエネルギー)などが、重力によって拘束された巨大な天体を指す。

「銀河団」

 その銀河同士が互いの重力で引っ張り合い、集まっているのが「銀河団」。

「銀河」は無数の「星」が集まった集団であるのに対し「銀河団」は多数の「銀河」が集団となった巨大な天体。宇宙はそれらすべてを包み込むもの。

「宇宙と人類」

 宇宙の魅力にかれた天文学者たちは、謎が解けたときの喜びを味わい、次から次へと疑問をもって研究に取り組んできた。

 最新の学会では「130億年前には銀河があった。その痕跡を宇宙塵うちゅうじんのなかから発見した」と発表されたが、最初の星がいつごろ生まれ、どのようにして消えたのかは、まったくわかっていない。

「宇宙で最初の星「初代星」は、太陽の数十倍の重さをもっていた」

「その巨大な星は、超新星爆発を起こして宇宙に消え、まき散らされた元素が次世代の星のタネになった」との報告もあったが、これはあくまで論理的なもの。

 実際に見たわけでもなければ、星から話を聞いたわけでもない。真実は誰にもわからず、推測にすぎない。

 どれだけ科学が進歩しようと、核心的なことをつかむのは絶対に不可能。

 宇宙は人類の考えなど遠くおよばない、人間の想像の域を凌駕した神秘的な世界。

 謎に満ちたその姿、隠された歴史は多くの人たちを魅了し、美しい天体は観る者に感動を与え、ときには人の人生観まで変えてしまう影響力をもつ。

 太陽系から銀河系、さらにその先に広がる果てしない空間。「恒星」「惑星」「衛星」「彗星」。そこにも必ずいるであろう生命体。

 未知の空間にある星のひとつに、生きる意味も死ぬ意味もわからず、ただ寄生するだけの人類。

 無限の彼方かなたにまで広がる広大無比こうだいむひな宇宙は、人間がいかにチッポケな存在であるかを教えてくれる。


【DESTINATION】プロローグ1 はじまりのタネ END


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