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【小説(練習)】舟はオペランド

秋ピリカグランプリで惹起されて、そのまま一本書き、次のピリカグランプリに出したい!と思ったのですが、
テーマもわからないし、次の開催がいつだかわからないので、一旦出すことにしました!
ピリカグランプリにご参加の執筆経験豊富な方々にアドバイスをいただきたいです……!
次回のピリカグランプリに自信を持って応募できるよう、少し練習していこうと思います。
誰にも読まれないのは残念なので、#秋ピリカグランプリ で出させていただきます、厚かましくてごめんなさい!一生懸命書きました。どうすればいいですか?
コメント、アドバイスを頂けたら、めちゃくちゃ嬉しいです!!!


苦しむ母の前に、いつでも朱の門は開ける。
それが唯一の救いだった。


「どんなに勉強をして、男を実力で押し退けても、結局女は、子供を産むとケア労働を押し付けられるこの屈辱よ」

母の震えた声が乾いた山道に響く。

「しかもアイツらはね、お願いします、とすら言わないの」

獣達が切り拓いたであろうわだちの悪路具合に、低く呻く。

「何もできない赤子と、ボロボロの私を置き去りにして、現場からまるで他人事のように黙って立ち去るの。」

バッタの背中は光で螺鈿のように不気味に光って跳んだ。

「自分の手は汚さずに、押し付けるの。とんでもなく卑怯な連中よ」

長い長い山道だった。


カランコロン。

その時、わたしは仔鹿が後から付いてくることに気付いた。仔鹿はただ優しく、後ろをゆっくりと付いてくる。振り返った母と目が合い、母は仕方なさそうに微笑んだ。

鹿は、此方へおいで、とでも言うように短く鳴き、私達の前へと躍り出た。


カランコロン。

しばらく進むと、唐突に視界には明るい翡翠色ひすいいろの海面が開けた。思わず眩しくて目を逸らす。三重塔のシルエットが、下に長く伸びる。

カランコロン。

やがて、蹄と石畳が喧嘩して、軽やかな音を立てる。

漂う香りはいつまでも懐かしく、揚げた饅頭の甘ったるさと焼牡蠣の塩気が編み込まれた。

饅頭の甘い香りに、無意識にくうを咀嚼した。

「お饅頭いる?」

そう語りかける母をよそに、わたしは屋台の右上に廻るカラフルな風車に釘付けになった。

「じゃあ、それも頂戴」

わたしの手元へと移った風車は、母の手の揚げ饅頭と潮の香りを混ぜ合わせ、龍となり天高く昇っていく。

石畳の通り道パサージュを抜けると、湿った砂利道に続いた。


カランコロン。

だんだんと潮は満ちてゆき、少しずつ、でも確実に水際が此方へと近づいてくる。

能舞台に辿り着く頃には、真紅の鳥居の脚は、既に塩水に浸かっていた。

鹿のひづめと奏でる虚無僧こむそうの小さな笛は、笙のミストシャワーリファにやさしく包まれて、籠がフワリと閉じ籠める。


幼子達は、木製の杓文字を両手に、赤の鼻緒を両脚に、愉しげに踊る。

「一緒に踊ろうよ」

わたしは嬉しくなって、駆け出した。

母は一瞬手を伸ばしかけたが、その手をすぐに引っ込めた。


カランコロン。

下駄の音が愉しくて、また足を投げ出す。


カランコロン。

ひとりの幼子は踊り子達の群れを抜け、巫女に木の杓文字を手渡し、やつれた女と手を繋いで舟に乗った。

そしてまたひとり、また一人と、幼子は群れを抜け、杓文字と引き換えに舟へと乗り込んでゆく。


巫女はゆっくりわたしの元にやってくる。

「杓文字は切符だよ」

母はその様子を黙ってじっと見ていた。


カランコロン。

母は、わたしの手を引っ張った。

「行っちゃダメ」

静けさの中、誰かがまた下駄を鳴らす。


カランコロン。

小さな手は、無意識に母の袖を握る。

「ちゃっちゃーめ?」

母の目にはうっすら涙が浮かんでいた。


「鳥居はオペレータで、舟はオペランドなの」

わたしをギュッと抱きしめて泣いたが、何故泣いているのか、わたしにはその理由がわからなかった。


彼らを乗せた舟は、八百万の神々から祝福を受けながら、ゆっくりと朱の鳥居をくぐっていった。


#秋ピリカグランプリ

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