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サプリメントモンスター
「で、このコエンザイムQ10って、何に効くの?」
サプリメントの山を前に、私は困り果てて夫に尋ねた。
夫は毎日、大量のサプリメントを摂取している。が、私はどれが何に効くのか全く把握していない。
こんな状況になったのは、子どもが生まれると分かってからだ。
私が葉酸やビタミンのサプリを飲み始めたのを見て、「親になるんだから健康で長生きしないと!」と惹起された夫。それ以来、サプリメントに凝り始め、今や我が家はサプリメント倉庫と化している。
「お前はコレとコレとコレを飲むといいよ」
誇らしげに効能を語る夫。しかし、私の心の中では「それってあなたの感想ですよね?」とリトルひろゆきがやかましい。
こんなにたくさんのサプリメントを飲む必要があるのか?と何度か尋ねたが、返事は曖昧。どのサプリが効いているのか自分でも特定できていないらしい。
もし、どれが効いているのか分からないなら、なぜそれを選んだのか。症状に合わせて選んだのではないのか?効果を感じているなら、どれのおかげか分からないはずがない。つまり、そもそも不調が明確じゃないから、選び方もなんとなくなのだ。
その結果、「飲むのをやめると時間差で調子が悪くなるかも…」という強迫観念に駆られ、どれもやめられない。こうして夫は、サプリメントモンスター、略してサプモンと化してしまった。
「あっ、でも、コエンザイムQ10は心臓のポンプ機能を活性化させるんだよ」
サプモンが得意げに言う。
「健康診断で心電図がよくなかったからさ」
それは私も知っている。
「……じゃあ、病院に行ってもらえますか」
半べそをかくサプモン。
「……高血圧にも効くんだって」
私は黙ってサプモンを見つめた。
下を向くサプモン。
「わかった、じゃあ、アブレーションスタディするわ」
【アブレーションスタディ】
効果がありそうな要素を一つずつ取り除き、どれが本当に効いているのかを検証する方法のこと。
今回の件でいうと、飲むサプリメントを毎日1種類ずつ順番に減らして、どのサプリメントを飲まなかった時に調子が悪くなるのかを確かめることを指す。
「おう、よろしく!」
数日後。
「……うーん、アブレーションしてみたけど、よくわからんわ。どれも効果あるようなないような」
「効果の判定基準は?」
「調子がいいか、良くないか」
「……あのさ、なんでアブレーションスタディまでやったのに、効果判定がフワッとしてるのよ。しかも、調子の良し悪しなんて、容易に色んな因子から影響を受けるでしょ」
「そうやねん、因子が多すぎて、調子の良し悪しがサプリのせいなのか、生活習慣のせいなのか分からんのよ」
「サプリメントともっとちゃんと向き合え!サプリメントは医療保険みたいなもん。一度始めたら半永久的に続くんだから、必要性を定期的に見直さないと!月々は大した額じゃなくても、積もり積もって莫大な出費になるんだから!」
「うーん、まぁまぁまぁまぁ」
数週間後。
「あのさ。椅子に座ってふくらはぎを伸ばす器具があるんだけど、それ買おうかな?」
私は言い放った。
「チョコザップでも経営する気か!」