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北の国から〜It's My Northern Soul〜

東京に初雪が降った夜

家路を急ぎながら、サブスクでランダムに曲をかけていたら、突然、ブッチャーズの「僕たちの疾走」が流れてきた。

完全に不意打ちを喰らった僕の心はその首根っこごと掴まれて

ぐわんぐわん

と激しく上下左右に揺さぶられた。

この禍々しくも懐かしい感覚に、やっぱりブッチャーズは、ただの音楽ではなかった、というか、それはもはや僕にとって

人生

以外のなにものでもなかったのだ

という事実に改めて気がつかされた。

ちなみに、この「僕たちの疾走」はブッチャーズ後期の代表作「無題 NO ALBUM」に収録されている。

そして、このアルバムジャケットのアートワークはブッチャーズと同郷の北海道の画家、深井克美の作品であり、かつ、彼の未完の遺作でもあった。

未完の遺作。

そう、深井はこの作品の作成中に飛び降り自殺してしまったのだった。

しかも、自分の母親の目の前で。

彼は、とてもグロテスクなのになぜか見る者に美しいと思わせるその独特の作風でマニアックな人気を誇った画家だったが、この遺作はそれまでの作風とは一転してカラフルで淡い色遣いに、なにか明るい希望のようなものすら感じる。

ブッチャーズの吉村秀樹はたまたま札幌の美術館で出会ったこの絵に一目惚れしてアルバムジャケットに採用した。

絵のタイトルは、

ランナー

そう

この「僕たちの疾走」は

同じく北の大地で、表現の世界にガチンコに向き合い走り続け、しかし、志半ばに力尽きゴール直前でリタイアしてしまった名もなき道産子ランナーへのブッチャーズからのレクイエム(鎮魂歌)だったのかもしれない。

ちらつく雪とともにビブラフォンも響く

僕を導くよう

あなたを導くよう

街は雪の中、おもいを繋ぎ止める

街は雪の中、おもいを消してゆく

(bloodthirsty butchers「僕たちの疾走」より)

うん、たとえ自らの足跡が

やがて降り積もる雪でかき消されることが予め分かっていたとしても、

このときブッチャーズがつなぎとめたいと思った想いを

そして、

ブッチャーズに何度も激しく揺さぶれられた

僕自身の想いを

この命のある限り

つなぎとめ、つないでいきたい。

それこそがすなわち、僕にとっての

生きる

ということなのだから。

降りしきるスノーで出来た純白のカーペットをしっかりと踏み込みながら、僕はそんな確信にひとり胸を焦がしていた。

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