いつだってラジオは、ボクを救う
赤い公園の「NOW ON AIR」のこのフレーズを聴くたびに、あるラジオ番組に夢中になっていた中学2年の自分のことを鮮明に思い出す。
3畳一間の自室のベッドの頭側の棚の上に、なんかの景品でもらった東芝製の全身朱色のラジカセを置いて、イヤホンジャックに黒い有線の片耳イヤホン(!)を着けて、夜中に聴くのが当時の定番スタイルだった。
もちろん「オールナイトニッポン」も「ヤンタン(ヤングタウン)」も「サイキック青年団」も聴いていたけれたど、それとは別に当時の僕には唯一無二なラジオ番組があった。
それはABCラジオの
「ヒートポップス」
という土曜の深夜にやっていた音楽番組。
関西ローカルなのに、杉真理(すぎまさみち)さんという東京を拠点に音楽活動をしているシンガーソングライターがメインパーソナリティをやられていて、僕は彼の(関西弁ではない)軽妙洒脱で洗練されたトーク力とビートルズをはじめとするその広く深い音楽知識の虜になったのだった。
確かに天真爛漫だった小学校時代から一転、中学入学と同時に急に誰とも喋れないネクラ青年になってしまった当時の僕にとって、これは大袈裟でも比喩でもなんでもなく、このラジオ番組を聴いている時だけが唯一
生きている
という実感を得られる時間だった。
それを証明するように、このラジオ番組が終わるという話を聞いたとき、僕は思わず
「これで世界が終わってしまう・・・」
とつぶやいていた。
ちなみに当時の僕がネクラになってしまったいちばんの理由は、
とにかく大人になるのが怖かった、からだ。
同時に、周りの大人たちのことも大嫌いだった。
だって、一番身近な大人である父親はいつも不機嫌でムスッとしてたし、中学校の担任は、
「人間はみな平等だ」
と素敵なメッセージをドヤ顔で語ったその舌の根も乾かぬうちに、試験用紙を配り始めて僕らを平気で学力別に仕分けしていく偽善者だった。
そして、塾の帰りの電車の中で見かける会社帰りの大人たちはみなぐったりと物も言わず俯いていて、まるで生気を失ったゾンビみたいだった。
本当にそんな大人が大嫌いだったし、そんな大人になんか絶対なりたくないって思っていた。
しかし、ラジオの中の彼だけは違った。
彼だけは唯一、信頼できる大人だと思った。
なぜなら、ラジオで話しているときの彼は
決して楽しそうなフリをしているわけではなく、
本当に全力で人生を楽しんでいるように見えたからだ。
実際、自分の好きな音楽の話をしているとき、そして、自分が好きな昔のコメディアンのギャグ(アジャパーも、あっと驚くタメゴローも、ヒジョーにキビシー!も全部、この番組が教えてくれた)を叫んでいるときの彼は、本当に子供みたいに無邪気で楽しそうだった。
だから、今思うと、大人のことを盲目的に敵対視していた典型的な厨二病の僕が生まれて初めて
「こーゆー大人だったらなりたいなぁ」
と思うことができた人生のロールモデルがこのラジオの杉さんだったのかもしれない。
そして、そんな風に自分がいちばん多感な時期に衝撃的なラジオ体験をした僕にはずっーと密かに心の中で温めていた夢があった。
それこそがまさに
「ラジオパーソナリティになりたい」
という夢だった。
そして、その夢にはもしかするとあのときの杉さんへ恩返しをしたいという気持ちも含まれていたのかもしれない。
そう、あのときの彼が僕にしてくれたように、自分の好きなものを存分に語って自らの楽しんでる様子を見せつけることで、ひとり部屋で塞ぎ込んでいる誰かの曇りがちな心に少しばかりの晴れ間を見せられたらいいな、ってどこかで僕はずっと思っていたのだ。
でも、先日、勇気を振り絞ってラジオ配信を始めた僕は、それとは全く違う展開になっていることに気付き、それに驚きつつも、とても喜んでもいる。
というのも、いざ蓋を開けてみたら、僕がリスナーの人たちを救うどころか、僕がリスナーのみんなから救われていると思うようなことばかりが起きているからだ。
それくらい毎回、リスナーの皆さんから、僕という人間の輪郭を浮き彫りにしてくれる、とても示唆に富む発言やリアクションを返してもらってばかりいる。
だけど、そんな主客転倒、いや、きっとどちらが上とか下とかじゃなく、あと完成度が高いとか低いとかでもなく、パーソナリティとリスナーがフラットにゆる~くコミュニケーションを続けながら、
気付いたら、なんとなく「平和で楽しい空間」をみんなで共有できている
そんな感覚がとにかく新鮮で、そして、少なくとも僕にとっては、この上なくサイコーに楽しいエンタメ体験になっている。
そして、何の地位も名誉もないMr.アノニマスな僕みたいな人間が、こんな風にエッセイにしろラジオにしろ気軽に自分の好きなことを発信できる今の時代って本当にすごいなぁ~と改めて思うのだった。
確かに中学生のあの頃と比べると僕らを取り巻く環境は、ある意味では当時読んでいたSF小説の世界ばりにガラッと変わってしまった感はある。
でも、形は変われど、
ラジオが僕を救ってくれる救世主であること
は今もあの時と変わらないままであり、そのことが僕はなんだかとてもうれしくてたまらないのである。
というわけで、これも一人のオッサンを救う人助けだと思って、皆さまもどうか僕の素人ラジオ配信を一度、聴いてみてはいただけないだろうか?(ま、まさかの人生初の提灯記事?)
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