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美しさの変遷
シワが増えていくことをキレイと呼ぶ君がいれば、もう少し人間を続けてもいいはずさ
いつもの日曜の昼下がり
この数週間、いろいろと慌ただしくて見れずに溜まっていた呪術廻戦3話分をまとめて家族で観ることにする。
みんな漫画ですでに知っているエピソードのはずなのに、一人だけ
「えっ!そーゆー展開?」
「この人、誰だっけ?」
とまるでこれが初見みたいに騒々しいヤツがいる。
妻だ。
彼女は、今クールのエピソードから、内容が怖くなって漫画をななめ読みするようになった、と告白していたけど、これはもはやほとんど読んでないに等しいなあ、と呆れてしまった。
そんな彼女の素っ頓狂なリアクションにすっかり感動を削がれた息子は、
やれやれ
と大人びた諦観の表情を浮かべている。
ソファの上に寝そべりながら、そんな二人のやり取りを眺めていると、妻の頭頂部が割と立派なザビエルハゲになっているのに気がついた。
そうなのだ。
バイトを始めた2ヶ月ほど前から、妻の頭頂部は突然、薄くなり始めて、そのことを彼女はしきりに気にするようになっていたのだった。
病院で円形脱毛症と診断されて、薬を塗るようになって、アホ毛も生え始めた、と言っていたけど、ここまで大きくなってたとは。
もちろん本人には言わなかった。
家では無防備になっているから目立つだけで、ちゃんと髪をセットしたら、目立たたなくなることも分かっていたから。
そうして、呪術廻戦をみんなで見終わった後(やはり面白い!)、妻が昨日、衝動買いしたコートを着てリビングに登場した。
そうなのだ。
ふだん衝動買いを滅多にしない、というか、家計を第一に考えて、自分の服とか買うのは後回しにするようなタイプの彼女から、昨日、
「素敵なコートを見つけたから、買っていいかしら?」
と珍しく電話がかかってきて、それがとても嬉しかったのだ。
もちろん僕の答えは、イエス、である。
NOTE家のファッションコーディネーターで、彼女と出会うまで本当に超絶ダサかった僕をそれなりに見られるようにプロデュースしてくれた彼女が選んだコートだから、当然、素敵に違いなかった。
でも、気づいたら僕の視線は、そのコートから彼女の首に移っていた。
重度のアトピー皮膚炎の彼女の首には冬の乾燥のせいで、無数のシワが刻まれていたからだ。
もちろん本人は気にするだろうから、口にはしなかったけど、このとき僕はそのシワだらけの首を見て、
美しい
と思ったのだった。
さっきのザビエルハゲもなんだか神々しく思えたほどだし、人間の審美眼って普遍的なものから、こんな風にパーソナルなものにシフトしていくんだな、ってことに気づいて、それが妙に面白く感じた。
うん、自分も含めて当の本人は認めたくないし、抗いたいところだろうけど、老い朽ち果てていくものや身体の衰えにも、しっかりと美は宿るのだ。
そんなことを本当は僕らも知っていたはずなのだけどね。
だって、僕らは
侘び寂び
なんて言葉を生み出した国の住人なのだから。