100歩進んで99歩下がる
リビングの隣の畳の部屋で息子がパソコンの前でずっと話している。
その日は以前、息子が参加していた、彼と同じような特性を持つ子どもたちのオンライングループのイベントの日で、OB?として彼も参加したのだった。
そして、どうやらそのグループでいちばん仲が良かった2歳年上の女の子と話し込んでいるみたいだった。
息子は、学校や宿題の悩みごとを含めて自分のことをなんでも話している様子だった。
確かに彼女は小5まで不登校だったけど、小6から学校に通い出した女の子だったから、今の彼の相談相手としてはピッタリだと思った。
ここ最近、親じゃない、第三者の存在が必要だと僕も妻も思い悩んでいたから、なんだか彼女のことを不意に現れた救世主のようにすら感じてしまったほどだった。
実際、2時間くらい話し込んだ息子はとてもスッキリとした表情で、
「吐きそうになりながら学校行くなんてすごいじゃんと言われたよ」
「好きな科目だけ授業出たらいいんだよって」
「宿題も全部やらなくてもいいよだって」
と言っていた。
「それって僕たちが今までずっと君に言い続けてきたことじゃん」
と思って思わず苦笑いしちゃったけど、
やはり親じゃダメなんだなあ
と痛感した瞬間だった。
けど、その話を聞く前から、実はそのことに僕は薄々と気づいていた。
きっかけは、彼の話し方だった。
パソコンの中の彼女に向かって話している彼は、いつもの可愛らしい、ちょっと甘えたような子供っぽい話し方じゃなくて、しっかりとしたお兄ちゃんみたいな喋り方をしていたからだ。
それが僕にはとても頼もしく感じられたし、きっとこんな風に僕らの知らない彼がこれからどんどん増えてくるのだ、と想像するととても嬉しい反面、正直、ちょっぴりさみしくも感じたのだった。
でも、そのさみしさは、間違いなく彼の成長の証なのだから、感じることが出来て本当によかったな。
昔の歌謡曲に
3歩進んで2歩下がる
という歌詞がある。
すごくわかりみなフレーズだと思う一方で、前に進んでいるという実感を感じることがほとんどないのが僕らの日常だとも思う。
でも、今日みたいなことがあるたびに、僕らはやはり前進しているのだ、と思えるから、
案外、
100歩進んで99歩
あたりが正しいのかもしれない
なんてね。