お父さんの腕まくり
「僕、友達の作り方が分からなくなったみたい」
昨日、習い事のトランポリンの帰り道で息子からそう言われたという妻の話を聞いたとき、
「ああ、そりゃあ彼だって本当は友達が欲しいよなあ」
ということに間抜けなお父さんは初めて気づいたのだった。
もちろん毎日、家でひとりでいるのはさみしいだろうし、お昼にちょくちょく勤務中の妻に「さみしい」って電話していることも聞いていたけど、正直、あんまりピンと来ていなかった。
というのも、僕の前での彼はいつもめちゃくちゃ明るくはしゃいでいて、さみしそうにはちっとも見えなかったからだ。
けど、彼がこんなテンションなのは、日中、ずっとひとりでさみしい思いをしていた反動だった
という事実にこの話を聞いて初めてちゃんと自覚できたような気がする。
そして、これまで僕は彼に対して
「学校なんて行かなくてもいいんだよ」
とか
「友達なんか無理して作らなくてもいいよ」
とか言い続けてきたけど、友達がいない彼のさみしさ、毎日ひとりぼっちの彼のかなしみを本当にどれだけ理解していたのだろうか。
けど、だからといって、友達の作り方は、僕にとって一番難しくて苦手な科目だから、正直、どうしたらいいのか途方に暮れている。
というか、僕自身、友達が欲しいのにどうしたらいいのか分からずに、ぽつんとひとりぼっちになるあのやるせなさを嫌というくらい味わってきたのだから、本当は彼の気持ちにももっと早く気づけたはずなのに。
なんて僕がウダウダ悩んでいると、そんな僕よりずっと冷静で現実的で何より友達がたくさんいる妻は、無理して友達を作るんじゃなくて、彼みたいな子が自然と友達が作れる環境、たとえばフリースクールみたいなところに入れたらいいんじゃない、という具体的な提案をしてくれた。
「うん、色々、ちゃんと検討してみようか」
僕は深々とうなづいた。
これまで僕はどこかで彼のことをずっと気の合う友達だって思っていた節があるけど、確かに彼から見たら、僕はどこまで仲良くなっても
ずっーと
お父さん
だったのかもしれない。
だったら、遅ればせながら、そろそろお父さんらしいことをしてみようじゃないか
朝、布団の上ですやすやと寝息を立てる息子の姿を見ながら、僕は、そっと腕まくりをしたのだった。