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カッーペッおじさんに救われた日

息子と二人、バス停でバスを待っていたら、彼が突然、

「さっき、カッーペッおじさん、いたよね」

と言ってきた。

「えっ!?カープおじさん?」

初めて聴くフレーズだから、ちゃんと聴き取れず、僕がそんな風に聞き返すと、彼は

「海釣り公園で痰をカーッと飲み込んでからペッーと勢いよく吐き出すおじさんいたよね」

と丁寧に言い直してくれた。

そして、確かに釣り場にそんなおじさんがいたことを思い出した。

けど、それ以上にそのおじさんのことをカーッペッおじさんと形容する息子が面白くて、

「なんかそんな風に言うとカープ女子みたいに可愛く聞こえるねー」

と返したのだった。

実は、この日、電車で2時間かけて横浜の海釣り公園に来たのだけど、水温が低すぎたせいか一匹も釣れず、しかも、潮風が冷た過ぎて昼前にあえなく撤退を決めた僕たちは遠目から見ても分かるくらい意気消沈していたのだった。

しかし、この話題をしたとたん、なぜだか二人とも急に気持ちが明るくなって、そこから、その辺に生えてた赤い木の実について「これってなんだろう?」って言い合ったり、バス停の標識を挟んでかくれんぼしたり、と無邪気にじゃれ合うようになっていた。

僕は、普段なら怪訝な顔をするだけのそのおじさんに少しだけ感謝したい気持ちになった。

けど、それ以上に、こーゆー思わずがっかりしてしまう残念な状況が訪れたときにも、こんなどうでもいい、ささいなエピソードで何とか自分の気持ちをアゲようとする息子の姿に頼もしさを感じたのだった。

あと、実を言うと、僕自身は、彼に合わせてずっと落ち込んだフリをしていただけだった。

だって、お父さんは、魚が釣れようが釣れなかろうが、潮風が冷たくて凍えそうになろうが、起死回生に食べたフランクフルトが不味かろうが、そんなのは本当に取るに足りないささいなことだって思えるくらい、君と一緒にいろんな体験が出来るだけでもうじゅうぶん過ぎるくらいハッピーなのだから。

でも、隣にいる君にはできるだけ笑顔でいて欲しいのも本当のところだから、やっぱりあの人にもちゃんと感謝の言葉を述べないといけないよね。

というわけで、

カッーペッおじさん、ありがとう!!



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