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イケメンの息子
今となってはまさに狂気の沙汰だが、僕は子供の頃、自分はいづれイケメンになるものだと信じて疑わなかった。
その理由は単純明快。
父親がイケメンだったからに他ならない。
若かりし頃の上原謙や佐田啓二を彷彿とさせる柔和で整った彼の容姿を親戚や友人はこぞって褒めそやした。
そして、子供の頃の僕もごくたまに「お父さんに似てきたね」と言われることがあった。
その度に、僕はやっぱりハンサムの卵なのだ!と内心、歓喜したものだ(イケメンという言葉は当時まだ存在しなかった)。
しかし、歳を取るにつれて、だんだん雲行きが怪しくなってきた。そもそもイケメンなはずなのに女の子に全然モテない。小学生時代の僕は足も速くて面白くてまさにクラス1の人気者だったにも関わらず。
そして、そんな自分にとって決定的な出来事が起きる。それは小6の男女仲良しグループ11人で遊園地に遊びに行ったときのことだ。
イベント自体はとても楽しくて僕もいつも以上にというか間違いなく参加者の中で一番はしゃいでいたのだが、ふと周りを見渡すと僕以外全員カップルだったのである。
「これじゃ俺一人だけまるでピエロじゃん」
1人帰るバスの車中で、窓に映る夕陽に染まった自分の顔を見つめながら、どうやら僕は父親のようなイケメンではないのだ、となんとなく確信した11の秋。
そして、それから30年以上経つが、本当に気持ちいいくらい一度たりともイケメンと言われたことがない。
しかし、だからといって、自分の人生がつまらなかったか、というとそうでもない。
しかし、それは自分の努力の賜物というよりも完全に周りの人達のおかげである。
誰もイケメンとは言ってくれなかったが、その代わりに私というちょっと変なキャラクターを受け入れて存分に面白がってくれたのだ。
そして、気づいたらあれだけ憧れていたイケメンのことももはやどうでもよくなっていた。
そう言えば先日、7歳になる息子に「お父さんってイケメンだよね?」と冗談混じりに尋ねたらこんな回答が帰ってきた。
「全然イケメンじゃないよ。でも可愛いから僕は大好きだよ!」
どうやらイケメンにならなくて正解だったのかもしれない。