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崖の上のポニョ、だった
いや、ポニョ、ではなかったかもしれない。
でも、子供の頃、崖の上のキワキワに建てられた家に住んでいたのは本当の話である。いや、もはや床の半分くらいは崖からはみ出していた、そんな家だった。
なぜその事実に気づいたかと言うと、家の下に地下室というか、洞穴みたいなのがあったのと、汲み取り式のトイレ(通称ボットン便所)の底までの距離が2-3mくらいはあって、自分のう◯ちが落ちるたびにまさに「ヒュー、ボットン!」という音が聞こえたからだ。
まあ、気づいたのは大人になってからで、子供の頃はまさか自分がそんな崖っぷちで生きているとは露とも思わず、むしろ普通の家にはなかなかない天然のアトラクションを無邪気に楽しんでいたくらいだった。
例えば、地下の洞穴は秘密基地にして、弟と二人でなんだかよく分からない怪しい液体を作ったりしていたし、トイレ中には無邪気に「爆弾投下!」なんて叫んだりしていた。
あとはムカデ、ゲジゲジ、ウジ虫、ヤスデ、ゴキブリ、なめくじなどなど
今ではなかなかお目にかかれない貴重な生き物たちの宝庫でもあったから、あの「インディジョーンズ」を初めて見た時も、
「所詮、SFXだしな。モノホンの迫力には敵わない」
と鼻高々だった。
実際、ありえないくらい大きななめくじを母が甕に入った塩を振りかけて退治する姿や、
人からもらった高級まつたけを土瓶蒸しにしたら、どうやら土瓶にゴキブリの卵がくっついたらしく、土瓶の蓋を開けた途端に大量の孵化した小さなゴキブリたちがわらわらと出てきたりなど
まさにインディジョーンズばりの体験をしてきたのである。
あと、これは不衛生で不快に思う人もたくさんいるかもしれないけど、ある時期、家の居間では、なぜかゴキブリが自由に飛び回っていた。
いったいどういうことかって?
もう少し詳しく説明すると、天井近くの壁に張り付いていた二匹のゴキブリが反対側の壁に向かって羽根を広げてパタパタと飛んでいるのになぜか父も母もずっと放ったらかしにしていたから、父親のたばこの煙で白く曇った上空を、彼らは確かに悠々自適に飛んでいたのだった。
本当に我ながら俄かには信じがたい話だけど、
「ゴキブリってめっちゃ飛ぶやん」
と子供心に思ったことを鮮明に覚えているから、これもやはり事実なのだろう。
しかし、ここまで書いたところで、我ながらこんな話、果たして面白いのだろうかと不安になってきた。
ただ、うちの息子にこの話をすると、毎回、
「マジで!?マジで!?」
と言いながら前のめりになって聞いてくれるので、もしかしたら一部の好事家、マニアの人々には面白いのかもしれない。
ちなみに僕自身は当時の様々な思い出が蘇ってきて、少しだけ気持ちが温かくなってきてはいる。
例えば、そんなとんでもないボロ家ではあったけれど、うちに遊びにきた友達はお約束のようにまずその家の外観に驚いた後、必ず異口同音に
「家ん中(は)めっちゃ綺麗でオシャレやん!」
と言ってくれて、それが何気にとても誇らしく思ったこととか。
ちなみに、それは全てインテリア好きな母親の成せる技だったから、
「なんだかかんだ血は争えないなあ」
と同じくインテリアが趣味の僕は今、頭をかきながら苦笑いしているところである。