最高の息子
たたたたたた!
早足で走る小さな足音がどんどん近づいてきて、
最後にピンポンの音が鳴った。
僕は左足をかばいながら、でも、あまり待たせないようにできるだけ足早に玄関に向かう。
そして、ドアの鍵を開けると、
はあはあと息をあげながら、でも、なんとなくいつもより元気そうな息子の姿があった。
普段着なのに体育帽をかぶっているのが何気に可愛いかった。
ああ、そうか、今日は社会科見学の日だったっけ。
彼は家に入るなり、開口一番、
「今日は一度も吐かなかったよ!」
と少し誇らしげに報告してくれた。
うん、10月に転校してから頑張って3日に1日くらいは学校に行けるようになったけれど、久しぶりの学校で遭遇する慣れない刺激のせいで、彼は1日に少なくとも一度は吐き気を催してトイレに駆け込むようになっていた。
彼が嬉しそうに報告する気持ちは痛いほど分かったから、僕も
「良かったね。よく頑張った!」
と彼の小さな頭をクシャクシャになるまで撫でたのだった。
その後は僕からわざわざ尋ねなくても、社会科見学で勉強したさまざまなこと(それは僕も知らない興味深い内容ばかりだった)をとても楽しそうに話す彼の様子を見て、
「学校には行けないけど、この知的好奇心は相変わらず半端ないなあ」
と彼と同い年くらい時の自分の姿(典型的な鼻垂れ坊主)と比較しながら僕は内心、舌を巻いていた。
そして、僕は彼が話し終わるのを待ってから、こんな質問をしてみた。週末、家族でお出かけしたときには必ず聞くお約束のヤツだ。
「今日は100点満点の何点だったかな?」
すると彼は少し悩んでから、
「48点かな」
と答えた。
正直、思ったよりも低かったけど(何しろ家族でお出かけのときは毎回90点代だから)、普段の授業の日は、おそらく20、30点くらいだろうから、まあ御の字だと納得した。
減点理由は、やはり騒がしくて先生の言うことを聞かない子がいたことと仲良くお話ができるお友達がいなかったことのようだった。
でも、なんとか乗り切って、それなりに楽しかったみたいだったから、本当によかった。
その日の夜は、息子が楽しみにしていた「ハウルの動く城」をみんなで見た。
カエルみたいなポーズで前のめりにずっとテレビ画面を見つめながら、時折
あー!、とか、えー!とか素直で大袈裟なリアクションをしている彼の姿こそが僕にとっては最高のエンターテイメントだった。
その後、一緒にお風呂に入って、一緒に歯磨きをして、最後におやすみを言うタイミングになって、息子は僕に向かって、
「あのときは48点って言ってたけど、本当はもう少し高かったかも」
と言ってきたのだった。
ああ、やはり僕が少しガッカリしたのに気づいていたんだな。
けど、そのことを忘れずに、一日の終わりにこうやって、わざわざ言い直す、そんなところがまさに君らしいよね。
僕の息子は学校に行けない。
そんな当たり前のことすらできない子供だ。
けど、この際だから、はっきり言わせてもらおう。
それがどうした。
そんなことなんて本当に取るに足りないと思えるくらい、君は、
僕たちには本当にもったいないくらい
最高の息子
なんだから。
笑っているときも、ビビって泣きそうになっているときも、ドンジャラで負けてムスッと不機嫌になっているときも、お父さんは
君のことが大好きだ。
そんな君が幸せになれない道理なんてない。
だから、大丈夫。
もうしばらくの辛抱さ。