転生したら、アラフィフメタボバツイチおっさんになってて最高だった件
「なんじゃこりゃあ!」
朝起きて鏡をみた僕はいつもより数オクターブ高い声で叫んでいた。
そりゃそうだ。
鏡の中には、いつもの僕とは似ても似つかない
でっぷりと太って年老いたみにくいおっさんの姿が映っていたからだ。
ちなみに、本来の僕は、メフィストフェレス王国のプリンスで、普段は美しい八等分の花嫁たちと白亜のお城で暮らしており、たまに配下の勇者や魔法使いをダンジョンに引き連れては、悪いモンスターたちを退治するという
とてもファンタジーな毎日を過ごしていた。
しかし、なんてこった!
どうやら僕は別世界に転生してしまったようだ。
しかし、何故だか理由はよく分からないけど、僕はこの前の世界とは似ても似つかない世界で自分が果たすべきミッションをすでに知っているみたいだった。
顔を洗って、先っちょがブラシになっている細長いステッキに白いペーストを塗りつけて歯を磨いた後、おそろしくシンプルな色と形の衣装に身を包んだ僕は、その小さな住居の扉を開けた。
そして、すごいスピードでひた走るメタル性の蛇みたいに細長い乗り物に飛び乗った。
その乗り物の小さなスペースにはありえないくらい人が詰め込まれていて、なんだかすごく息苦しいし、暑苦しい。
そして、約50分後、他の乗客と一緒に押し出されるようにその乗り物を下車した僕は、僕がやるべきミッションがたくさん詰まっている四角いマッチ箱みたいな形の建物に入っていった。
この世界で僕に与えられたミッションは、どれもありえないくらい地味なものばかりで、やたらと忙しい割には、あのモンスターを倒す爽快感とも、魔法を使うワクワク感とも、ヒロインや群衆からの賛辞とも無縁だったけど、太陽が沈み出す頃には、
本当になぜだろう?
「ああ、なんか久しぶりにめちゃくちゃ楽しかったわ」
と心の底からつぶやいている自分がいた。
そして、ふと上着のポケットの中に入っていた四角い機械に目をやると、
「今夜はあなたの大好きなビーフシチューよ❤️」
という文字が書かれていた。
ムフッ!
と思わず自分の鼻の穴が膨らむのが分かる。
うん!
翼の生えたドラゴンも、耳のとんがったかわいい妖精も、麦わら帽を被った海賊の少年もいない
僕が転生したこの
「異世界」
でも、
どうやら僕は楽しくやっていけそうだ。
ヒャッホー!