いつか離れ離れになる君へ
あのときは僕とこんなやり取りをしていた彼だったけれど、今年は体調が悪くて、結局、サンタさんへのお手紙とトナカイさん向けのクッキーが用意できなかった。
そのことを人知れず、ずっと後悔していたらしい息子は、例年どおり24日にプレゼントが届かなった現実も相まって、昨日(25日)の朝、目覚めたときには、彼いわく、96.6%サンタからプレゼントをもらえないと諦めていたそうだ。
ただそんな絶望的な気持ちで恐る恐る玄関を覗くと、ちゃんと彼が欲しがっていたメタリックグリーンの自転車が置いてあったから、息子は泣きたくなるくらい嬉しかったそうだ。
ここまですべて、らしい、とか、そうだ、と書いているのは、息子は父親の僕とは正反対で、なかなか喜怒哀楽を表に出さないタイプだから、リアルタイムのリアクションはいたってクールだったけど、その後、時間差で僕に本音を吐露したからである。
ちなみに、その話はすべて25日の昼に早速、サンタからもらった自転車で二人でツーリングに出かけた際に明かされたものだ。
本当に目をキラキラ輝かせながら、今回、手紙を出せなかったのにプレゼントをくれたサンタへの感謝の気持ちを述べる彼の姿を見て、父親の僕もまた今回のサンタのファインプレーにグッジョブ!とつぶやいた。
そして、久々に饒舌になった彼の言葉の端々に感じられる
私たちが信じる力さえ失わなければ、この世界の可能性は無限である
という彼の瑞々しい人生哲学に改めて触れることできた僕の心には自然とあのときと同じ感情が芽生えてきた。
そう、今まで僕が出会ってきた人の中で、いちばんそんけいできるのは、
やっぱり君なんだよな。
それもぶっちぎり、でね。
最後に神社でお参りした後、僕らは自宅を目指して、元来た道を引き返す。
久しぶりの自転車で最初は漕ぐのがぎこちなかった彼も、この頃にはすっかり勘を取り戻して、冷たい冬の風を切りながら、グングンと前に進んでいく。
一方の僕はと言えば、昨日、大きな荷物を家まで運ぶというイレギュラーな作業があったことも手伝い、膝と腰の具合がどうにもよくなくて、彼とは逆に漕ぐスピードがどんどん遅くなっていった。
そして、息子の背中が見る見るうちに小さくなっていく様子を眺めながら、僕は、この映像に、未来の二人の人生を重ねていた。
そう、これから君はどんどん成長して、力強くなったその足でこの世界をぐんぐん前に進んでいくだろう。
かたや無敵の僕も生命の宿命には抗えず、これからどんどん衰えていき、歩みもどんどん遅くなる。
その結果、出来ればずっと後ろで見守っていたかった君の姿はどんどん小さくなっていき、最後には見えなくなるのだろう。
それはとても哀しいことであるはずなのに、それ以上になんだかとてもうれしくことでもあって…。
感極まった僕は、気づいたら激しく嗚咽していた。
そして、
きっと、今日もまた幸せの青い鳥を探して、虫取り網を抱えて必死に走り回っている人々の姿を想像しながら、
でも、本当は、
幸せとは自分から探しに行くものではなくて、ふとした瞬間に不意に訪れるものなのかもしれない
なんてことを考えたりもした。
そして、同時にこんなことを思ってもいた。
この一見、クソッたれな世界は、もしかしたら、僕らが想像するよりも遥かに愛に溢れている
素晴らしき世界
なのかもしれない。
そう、僕らが
それを信じ続ける心
を失わない限り、ね。