ビタースイートランジェリーメモリー
200X年
銀座三越のライオン像前という渋谷駅のハチ公前とタメをはるくらい我ながらベタすぎる待ち合わせ場所に、待ち合わせ時間の10分前に着いた僕は、ドキドキしながら、彼女が来るのを待っていた。
すると、それから5分くらいして、忙しなく行き交う都会の人々の群れの中から、本当に魔法みたいに、ピョコッって君は飛び出してきたんだった。
「N.O.T.Eくん、こんばんは!今日はよろしくね」
そんな風に軽やかに語りかける彼女は僕より3歳年上のランジェリーデザイナー。
その日は、次回の飲み会(合コン)の作戦会議という名目で幹事の二人で会う約束をしたのだけど、内心、彼女のことが好きだった僕は、
「銀座で二人きりで会うなんてもはやデートやん」
と一人で勝手に心臓をバクバクさせていたのだった。
もちろん彼女にはバレないようにいたって平然を装うつもりだった。
だったけど…。
大きな胸が嫌でも強調されるまるでチャイナ服のようにピッタリとした、でも、ベージュを基調にしたとてもシックでエレガントなドレスを身にまとった彼女の姿を見るなり、
僕のハートは
ズキューン!
と昔見たカートゥンアニメの主人公みたいに
完全に撃ち抜かれてしまったのだった。
きっと全てはお見通しだったかもしれないけれど、そんな僕をからかうことなく、彼女の方こそ終始いつもと同じ感じで接してくれたのだった。
どんな話をしたかはもはや完全に忘れてしまったけれど、僕が予約した窓の大きなイタリアンレストランで、小さなテーブルを挟んで、彼女とたくさんいろんな話をしたこと、その窓越しに見える夜の銀座の街並みがいつも以上にキラキラして見えたこと、そして、何よりもそれよりもずっとキラキラしていた
彼女の笑顔のこと。
目を瞑ると、いまだに鮮やかに思い出すことができる。
二次会には彼女が行きつけのガヤガヤと大勢の人で賑わうワインバルに行って、お互いかなり飲んでしまって、まあ彼女はまったく大丈夫そうだったけど、かたや足元もおぼつかないくらい酔っ払った僕は、どこかでそれを言い訳にして、チャンスはまだあると思ってしまって、肝心のこと、
そう
「好きです。僕と付き合ってください」
の一言が言えずじまいだった。
そして、いよいよ別れ際の地下鉄のホームで、彼女の方からこんなことを言われてしまった。
「N.O.T.Eくんは、どんな女性がタイプなの? 今度、探しておくから教えてね」
なんて答えたかは覚えてない。
でも、この言葉を聞いてとても動揺してしまったこと、そして、
「あなたみたいな人です」
とは言えなかったことだけは覚えている。
その後も彼女とは飲み会で何回か一緒になったし、というかメル友にもなって結構、メールは頻回にやり取りしていたから、チャンスはいくらだってあったはずなのに、結局、僕は一度も告白できずじまいだった。
それくらい高嶺の花だって思っていた。
それくらい自分に自信が持てないチキン野郎だった。
「こんなブサイク、彼女が好きになってくれるはずない」
ってずっと言い訳していた。
でも、今、はっきりと言えるのは、これまで本当にいろんな人たちと出会ってきて、その中には当然、とてもひどい人たちもたくさんいて、だから、僕は
時々、たまらなく死にたくなるのだけど、
でもこうやってまだかろうじて生きていられるのは
この世界には素敵な人もちゃんといる
と思わせてくれた人たちに出会えたからで、
彼女も
まさにそのうちのひとり
だったということだ。
そして、今の僕が、少なくとも自分が大切な人たちに対しては
自分の気持ちをちゃんと言葉にして伝えることできるようになったのは、間違いなく
そんな彼女との
このかけがえのない
ビタースイートランジェリーメモリー
のおかげなのである。
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