ガン黒ギャルに憧れて
日本のロック史に間違いなくその名を刻むだろうチバユウスケというロケンローラーがいる。
50歳を過ぎた今もThe Birthdayというバンドで精力的に活動している彼だけど(あの映画版スラムダンクのオープニングを歌ったバンドと言えば、分かる人もいるだろう)、90年代に青春時代を過ごした僕らの世代にとっては、やはり
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(通称ミッシェル)
のフロントマンとしてのチバユウスケの印象が強烈だ。
ちなみに今の若い子には中々イメージが湧かないかもしれないけど、かつてロック(ロックンロール)とは、ヤンキーや暴走族が好んで聞く不良の音楽だった。
そして、おそらくそんなオールドスタイルのロックの最後のスターが彼らとブランキージェットシティだったと僕は考えている(ちなみにザ•ラスト•ロックスターという名のちんどん屋バンドについては黙秘権を行使し続けたい)
しかし、確かに当時からミッシェルとブランキーはよく比較されたり、お互いに引き合いに出されることが多かったけれど、
なんとなく怖そうなアンチャンたちだ
という共通点以外は、実は音楽性から何から全く別物のバンドだった。
特に両者の一番の違いは、その不良度だったと思う。
つまり、
ブランキージェットシティの3人が
まごうことなき筋金入りの不良たち
だとしたら、
ミシェルガンの面々(アベフトシ以外)は
そんな不良に憧れるボンボン大学生
という感じなのである。
まあ、実際、彼らは明治学院というカソリック系のお坊ちゃん大学の学生でもあったし(ちなみに大学の先輩バンドにはあのアルフィーがいる)
そんなある意味、両極端なバンドが雑誌か音楽番組の企画で焚き火を囲んだ対談している映像を見たときも、モノホンの不良の迫力を前にして、伏し目がちにただうなづいているだけのお行儀のよい彼らの印象しか残っていない。
そりゃあ、あの椎名林檎も、チバのグレッチではなくて、ベンジーのグレッチでぶたれたくなるだろう。
かくいう僕もまた、ブランキーの不良の人たち特有の色気や逞しさに強く惹かれたし、何より「悪いひとたち」「不良の森」「綺麗な首飾り」といった傑作を産み出したストリート詩人としてのベンジーの野性的、天才的な才能の虜になった。
でも、内心では、ずっと自分は間違いなくチバの方にシンパシーを感じてるよな、とは思っていた。
例えば、LAST DANCEと名付けられたブランキーの解散コンサートの会場となった横浜アリーナ周辺に、当日、たまたま居合わせた僕は、アリーナから続々と出てくる、革ジャンやリーゼントやモヒカンやTATOOなどなど「悪いひとたち」の本格的なたたずまいに本気で肝を冷やしていたし。
一方で、ガレージロック、黒の上下のスーツ、グラサン、髑髏のトレードマーク、バーボンで酒焼けしたしゃがれた声など、
確かに一見すると、ミッシェルもまたブランキーに負けず劣らずコワモテだけど、例えば
ライブ中に、マナーの悪い観客からペットボトルを投げられてそれがチバの腹部を直撃したり(ちなみに、みんなベンジーには投げなかった、だって、怖いもん笑)
ミュージックステーションでドタキャンした海外のアーティストの代わりに、急遽、演奏を買って出るなど、
彼らのエピソードには随所に、生粋の不良ではない育ちの良い人ならではの繊細さや人の良さが垣間見えて、見た目のわりに正直、全然、怖くはなかった。
けれど、僕にとっては、そんな線の細さこそがミッシェルの一番の魅力で、だから、たまについつい歌詞に漏れ出てくるチバユウスケのおセンチなリリシズムが大好物だった。
そして、個人的にそんなチバのおセンチぶりが全開していると思う曲が、彼がミッシェル解散後2年目に結成したROSSOというバンドのデビューシングル
「シャロン」
である。
この曲の中で、彼は、ずっとシャロンになりたい、なりたい、言うとるわけですが、
そのシャロンとは、
なんと
渋谷のパルコで買い物をした後に、道玄坂上のラブホで茶髪のチーマーの彼氏に抱かれるような
いわゆるガン黒ギャル
なのである。
そして、彼が、なぜそんな彼女に憧れて、しきりに彼女になりたがっているかと言うと、
シャロンは、
(自分とは違って)
ワンダーランドはこの世界じゃないことをしっかりと認めた(絶望した)上で
たくましく生きている人だから
と彼が勝手に思い込んでいるからである。
しかし、そのシャロンに向けるチバのまなざしがあまりにも無垢で無防備過ぎて、だから、これまで飽きるほど聴いてきたはずなのに、毎回、曲の終わりに、この歌詞が流れるたびに、僕は思わず涙ぐんでしまうのである。
今では、顎ひげを蓄えて、まるでワンピースに出てくる海賊みたいな風貌になってしまったけれど、その瞳のゆらめきは、不良やガン黒ギャルに憧れていたあの頃のままなのが分かる。
そして、そんなチバユウスケのことが僕はずっと大好きなのである。