抱きしめたいの
昨晩、息子と電話で話してたら、
なんだかモソモソとしたやけに元気のない声だったから、急に心配になってきた。
その前日の電話まではとても元気だったから、余計に・・・。
けど、妻に彼の様子を聞いてみても、
「いや、普通にいつも通り元気だよ。今も台所でばあばのお手伝いしてたところだし。」
という話だった。
しかし、どうしても気になったから、今日はいつもは21時にかける電話を前倒しにして19時にかけてみた。
でも妻もばあばも電話に出ない。
きっと晩ご飯の片付けなどで忙しいんだろうけど、だったら、と僕は息子の携帯にかけ直したのだった。
すると、彼はすぐに出てくれた。
でも、やはり昨日と同じく何とも浮かない、というか、妙にさみしそうな声のトーンだった。
僕は努めて明るく、そして、冗談めいた感じで
「えー!どないしたん?もしかしたら、お父さんとずっと会えなくてさみしくなったん?」
と聞いてみた。
そしたら、
「そんな訳ないやろ!」
と間髪入れずに、いつもの威勢のいいツッコミが入る
と思っていたら、
息子は黙り込んでしまった。
そして、しばらくしてから、ボソリと
「みんなあんまり遊んでくれないんだよね」
「お母さんもなんか冷たいし」
と言うのだった。
僕は
「家に帰ったらお父さんとまたスマブラしようよ。そして、一緒に釣りにも行こう」
「あと、お母さんは、今、周りの人にいろいろと気を遣って大変なだけで、決してわざと冷たくしてるわけじゃないと思うよ」
と励ましてから、
「明日、みんなとUSJ行くんでしょ?さっきテレビでCMやってたけど、チェーンソーマンのアトラクションやってるみたいだよ」
と続けて、なんとか彼の気持ちを持ち上げようとしたのだけど、結局、あの何とも心もとなくさみしそうなトーンは終始変わらず、最後も
「早く猫に会いたい」
って小さく呟いていた。
その後、お母さんに代わってもらって、改めて彼の様子を尋ねてみたけど、
「いや、全然、元気だよー」
と昨日と全く同じ答えが返ってきた。
けど、その二人のリアクションの違いから、
かえって今の息子が置かれている状況、というか今の彼の気持ちが手に取るように分かったような気がした。
電話を終えた僕は不意に夜風に当たりたくなってひとり外に出た。
でも、風なんかちっとも吹いてなくて、代わりにじっとりと暑苦しい、いかにも今年の夏らしい暗闇が僕の身体にまとまりついてきた。
そして、その湿度のせいで、急に自分の眼球の周りだけやけに潤ってくるのを感じながら、
僕はさっきの電話の彼と同じくらい、弱々しく小さな声で
「早く会いたいなあ」
って呟いていた。