正直、どうしたらいいのか分からない。だけど…。
念願の海と砂浜にやって来た息子は、その喜びをその華奢な身体全身を使って思いっきり表現していた。
側転したり、四足歩行で駆け出したり、犬みたいに穴を掘り始めたり…。
って、おまえは狼少年ケンか?(笑)
と、こちらの想像を超えるワイルドかつ不可解な彼の挙動に呆れていたら、隣で一緒に息子の様子を眺めていた妻が
「本当に嬉しそうだね。」
と話しかけてきた。
それに僕が
「うん、あいつめちゃくちゃ嬉しそうだね。」
と答えると、彼女は
「いや、◯◯じゃなくて、あなたが、よ。」
と言ったのだった。
その思いがけない一言に一瞬きょとんとしてしまったけど、ほどなくして
ああ、なるほど。僕は感情がすぐに顔に現れるタイプだから、確かに彼女の言う通りだよな、と思った。
大好きな息子がこんなにも幸せそうな姿を僕らに見せつけてくれて嬉しくないわけないよね。
うん、僕が彼のことが大好きなのは疑いようのない事実である。
ただの馬鹿に過ぎなかった僕は神様が彼を僕らに授けてくれた瞬間から、親馬鹿へと華麗なる進化?を遂げたのだった。
でも、親馬鹿ではあるけれど、いい親かというと、からっきし自信がない。というかそもそも親という自覚すらなかったかもしれない。
だから、たぶん一般的な親御さんから見たら、めちゃくちゃ子供を甘やかしていると思われるだろう。
実際、この旅行でも息子が食べたいものや行きたい場所はすべて叶えたし。
ちなみにこの日の息子のランチは刺身定食2,400円也(僕のランチはイカの丸焼き900円)
というか、元々、息子は遠慮してわがままをなかなか言わないタイプだから、わざわざ僕らから聞き出して彼の希望を叶えるという徹底した甘やかしぶりなのである(笑)
大好きだからついつい甘やかしてしまう側面もあるけれど、たぶん僕が今やっていることは、自分が父親にやられてきたことと正反対であることにも気が付いている。
子供の頃、僕は父親からずっと無視され馬鹿にされ続けてきて自己肯定感の低い人間になってしまったから、息子に対しては逆に
彼の自己肯定感を高めることに全振りしているのだと思う。
でも、冷静に考えると、それは単にネガがポジに変わっただけの話で、ちゃんとした子育てとはほど遠いものなのだろう。
今僕がふとそんな風に独りごちるのは、その日の最後に訪れた鎌倉にあるアンティークの家具や雑貨が飾られた素敵な喫茶店の丸テーブルを囲んで久しぶりに開いた家族会議で、息子の今の状況をしっかりと確認できたからだと思う。
ちなみにこの春に小学5年になった彼はもうかれこれ2年もまともに学校に通えていない。
正直、僕も妻も勉強のことはあまり心配していない。勉強が得意だった僕ら二人の子供ならまず大丈夫だと思っているし、実際、飲み込みも理解もとても早いからだ。
しかし、勉強が出来るだけではこのタフで冷酷な現代社会をサヴァイブ出来ないのは僕自身が日々痛感していることだし、
実は僕が大好きな彼の長所や資質も、これからの彼の人生においてはむしろ彼を苦しめる足かせになるのではと懸念すらしている。
つまり、親としての僕は思いっきり途方に暮れているのだ。
そんな僕は、半ば「えいやっ!」という気持ちでほとんど自分の経験則だけで、どうしても学校に行けないと言う彼へある代替案を提案した。
利発な彼なら決して難しいものではないと思ったけれど、その提案を聞いた息子の表情がみるみるうちに曇っていくのが分かった。
その姿を見て、僕は
「ああ、これは僕が思っていた以上にマズイ感じだぞ。」
と直感した。
だから、決して焦るわけじゃないけど、これまで妻に任せっぱなしだった子育てに僕ももっとちゃんと介入しないといけないぞ、という気持ちを新たにした。
そして、その決意を胸に潜ませながら僕は最後に彼に対して僕がいちばん大事だと思うことをこんな風に伝えた。
「お父さんのアイデアを無理に実行する必要は全然ないんだよ。僕やお母さんが望んでいるのは、何よりも君が"今日が昨日より少しでも楽しく思える"そんな毎日を過ごしてくれることだからね。」
「うん、分かったよ。」
と神妙な面持ちで答える彼の声のトーンが若干上がったのを僕は聞き逃さなかった。
そして、それから約2時間後、最寄駅から自宅までの帰りの道で、息子が、突然、彼が考案した
"今日が昨日より少しでも楽しく思える"ための具体的なアイデアを提案してくれた。
ああ、あれからずっと考えてくれていたんだね。
と僕はちょっと感動した。
そして、それは実際になかなかイケてる案だったのと、僕のサポートが必須な内容だったから、僕は彼に向けて一言、
「お父さんが全力でバックアップするから、一緒に思いきり楽しもうな!」
と力強く答えたのだった。
実はこの2週間くらい、またあの自分の悪い心の虫が目覚めてしまって、そのせいで罪のないたくさんの人たちを傷つけてしまって、こんな自分なんかいっそ死んだ方がマシだとずっと悶々としていたのだけど、そして、たとえ「覆水盆に帰らず」だったとしても、いや、だからこそ、僕はこの目の前にいる
愛する家族のために
精一杯自分が出来ることを頑張ろう
そして、
その姿を出来るだけここ(note)に記録し続けていこう
と固く心に誓ったのだった。