スマホに向かってひとりつぶやいてたぜ、冬
「この一歩はひとりの人間にとっては小さな一歩にすぎないけど、人類にとっては大きな飛躍だ」
なぁんて思わず月面着陸した宇宙飛行士みたいなことを言いたくなってしまったくらい
とてもいいことがあった夜。
家までの帰り道、うれしさのあまりボクは久しぶりにスタエフのライブ配信を始めたのだった。
でも、いざ話してみると、妙に気恥ずかしくなって、やけに平静を装っている自分がいて、それが我ながら可笑しかった。
でも、ま、いいか!ってすぐに開き直ってそのままの調子でボクはそのうれしかったエピソードを話し始めた。
でも1分足らずで終わったから、あとは最近の家族の様子などほんとうに脈絡もなくいろいろな話を自分のiphoneの煌々と光る画面に向かって話し続けた。
前から気になっていた駅前のレストランにはタキシード姿の店員が物々しくお客様の到着を待っていた。
ボクのお気に入りスポットの線路下を抜ける小さなトンネルが視界に入ったと思ったら、ちょうどその上を黄色い電車が通過して、その光る車窓からは帰宅中の人たちの黒い人影が見えた。
そのトンネルを抜けてほどなくしてある左右に枝別れした道をいつもの左ではなくて、右を選んで歩くと、横幅が広くてなだらかなとても気持ちがよい坂道が待っていた。
そうこうしているうちに、あっという間に我が家がある集落に到着した。
そのあたりは街灯もほとんどないような田舎町だから、基本、ボクの目に入る光明は住宅から放たれるスクエアなヤツばかりで、でも、その人口の光はやけにボクの心を温かくしたから、家路を辿る足取りも自然と軽くなるのだった。
そして、ゴールの200m手前あたりのところで、あえなくボクのiphoneは息絶えてしまった。
結局、誰ひとり来なかった。
つまり、ボクはこの30分くらいの間、ずっと独り言を呟いていたというわけだ。
けど、このときは不思議とちっともさみしい気持ちにはならなくて、ただただたくさん話せたという充実感がボクの心を満たしていた。
やがてそんなボクの目に
世界でいちばんあったかい光
が飛び込んできた。
「よし!ラストスパートだ」
はやる気持ちのフタを全開にしてから、ボクはその光めがけて勢いよく駆け出した。