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違いしか分からない男
前世紀末、僕は途方に暮れていた。
まあ、それはある意味、想定の範囲内だったわけだけど。
だって、田舎の大学で4年間、勉強やバイトもそっちのけで、仲の良い数人の同級生と毎晩、徹マンに明け暮れていた、コミュ障陰キャ男子がいきなり関東某県の食品工場の超ガテン系で劣悪な労働環境の生産ラインにぶち込まれたわけだから。
いわゆる三直制のその職場の朝は早出の時は3時から始まり、敷地面積の8割を締める動く熱した鉄板のせいで、室内温度は40℃を超えていた。
基礎体力もコミュ力もほぼゼロに等しかった新社会人の僕はその過酷な環境で毎日フラフラになりながら、そして、たくさんヘマをしながら、働いていた。
仕事から帰ると、疲れ果てて晩メシも喉を通らず独身寮の3畳一間の畳敷きの部屋で汗まみれな身体のまま万年床にバタンキューしていた。
そんな自分を
まるでボロ雑巾みたいだな
と自嘲しながら、夢とか希望とか抱く隙なんか全くなくて、ただただ生き延びていただけの毎日。
でも、実習生として職場を改善する課題研究をしているときだけは、とても楽しかった。
今、思えば、職場の人も寛容だったと思うけど、入社したばかりの経験値ほぼゼロな僕の立てた仮説を信じてくれて、実際に工程を管理するシーケンスプログラムまでいじらせてくれたのだ。
でも、その結果、実際にその職場の一番の課題だった製品歩留まりが大きく改善したのだった。
これは完全に自慢だけど、50名近くいた実習生で、実際に工場実習の課題研究で工程改善を実現したのは僕ひとりだけだった。
結局、8ヶ月に及ぶ実習期間を終えても、職場の人とマトモな会話も出来ずに、うっかりミスでうしろ指さされるような悲惨な状況は何一つ変わっていなかったけど、それでもこんな僕でもなんとかやっていけるかもしれない、と思えたのは、このときの確かな手応えがあったからだ。
というか、本当にそれしかなかったから、それに一縷の望みを託すしかなかったというだけの話だ。
そして、当時、僕はこれは完全に感覚的なものだったけど、そんな自分のことを
「物事の本質しか分からない人間」
と評していた。
そして、その感想は今も変わっていない。
つまり、何も成長してない(笑)
でも、僕はそんな人間としての使命を全うできるように、これからも自分に嘘をつかずに積極的に社会にアクセスしていきたいと考えている。
そして、頑張れ!フレッシュマンたち。
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