
ゴキブリ博士ちゃんからのとどめのエール
昨晩は仕事でクタクタに疲れ果てて、家族三人で観るのを楽しみにしていた「バック・トゥー・ザ・フューチャーⅡ」も開始数分で眠気に襲われてしまい、まったく観ることができなかった。
でも、妻と息子がテレビを観ながら楽しそうに反応している様子には薄っすら気づいていて、例えば、息子が
「面白い映画だねー」
と嬉しそうに言っているのが聞こえてきて、ああ、よかった、と意識が朦朧としながらも安堵したのはよく覚えている。
あと寝ている間中、ずっと全身がだるくて痛いなあ、と思っていたことも(苦笑)
そして、映画が終わった頃、息子がそんな僕を起こしてくれて、ウトウトしながら僕がなんとかパジャマに着替えて布団に入ろうとしていたそのときだった。
2階の方から
「キャー!ゴキブリ!」
という妻の大きな叫び声が聞こえてきたのは。
この叫び声で覚醒状態になった僕は、キッチンにあった紙袋をまるめて、2階に上がり、廊下の壁の上の方にいるゴキブリをその凶器で叩き潰したのだった。
実はこのとき息子から
「殺しちゃうの?」
と言われて少し躊躇ったけど、妻がゴキブリが超苦手なこととあのすばしこい彼を殺さずに捕まえるのは今の僕には到底無理だと判断して、心を痛めながら殺ってしまったのだった。
そしたら、妻にはとても感謝されたけど、案の定、息子は落ち込んでしまって、
「お父さんのパシン!と叩く音がしんどかった」
と告白されてしまった。
「そりゃそうだよね。君がゴキブリのこと友達だって思っているのお父さん知ってたのに、仕方がないこととはいえ殺しちゃってごめん」
内心、そう謝りながら僕は、妻がお風呂に入っている間、自分の布団に彼を招き入れて、彼にゴキブリの話をたくさんしてもらったのだった。
「ゴキブリは埃とか人間の垢とかまで食べるし、どんな隙間も通るし、触覚も敏感で最強のフェロモンも出す凄い生物なんだよ」
「ゴキブリが汚いってみんな言うけど、それは人間が作った汚い環境のせいで、だから人里離れた森の中に住んでいるゴキブリは実はとても清潔なんだよ」
などなどゴキブリのトリビアをたくさん教えてくれて大変勉強になった。
さらに蜘蛛やゲジゲジや蛇やさそりなどゴキブリ同様、人間に嫌われている生き物たちの面白い生態についても教えてくれた。
そうやって話しているうちに、ゴキブリが死んでしまった彼の悲しみも薄らいでいるようだったから、それは僕の思惑通りでよかった。
一方で、実は、僕自身も、そんな息子の話を聞いているうちに、仕事でくたびれて落ち込んでいた心が癒されて、なんだか優しくてふわふわした何かに包まれているような感覚を覚えていた。
これは本当に思いがけない副産物だった。
そして、彼が自分の布団に戻る別れ際、息子は、そんな僕に向かって、こんなとどめのエールを送ってくれたのだった。
「いつもありがとね。お父さんならきっと大丈夫だよ。ファイト!」
正直、今の僕は自分のことをまったく大丈夫だと思えてないのだけど(苦笑)、本当に不思議なもので彼がそう言うなら、大丈夫かもしれないな、と少し思えてきたのだった。
とにかくこの週末はしっかり羽根を休めて、来週からまた自分なりに精一杯、頑張るよ!