ゆるゆるハッピーバースデー
君が生まれてもう10年も経つんだ、とずっと狐につままれたような気分だった昨日
夕方、新しく住み始めた街のお寿司屋さんでみんなと待ち合わせして、カウンターに君を間に挟んで3人横並びに座る。
座るなり、君は無邪気に
「回らない寿司を食べるのこれが生まれて初めてだわ〜」
と告白し始めて、妻と僕は思わず苦笑いする。
まあ、実は僕自身もカウンターで寿司を食べるのは生まれてまだ4度目くらいなんだけどね。
そんな訳で、メニューも特になく、カウンター前に置かれたショーケースも水蒸気のせいで曇って中のネタがよく見えず、どうしようか困っていたところ、
いかにも江戸の寿司職人然とした
きっぷも恰幅もいいおやっさんが
「今日はこいつがおすすめだよ」
なんて言ってくれて
何度も助け舟を出してくれた。
そして、この日、君が食べたもの
やりいか
ひらめ
サーモン
いくら
あなご
あん肝
焼きハマグリ
カニ味噌サラダ
(店主がおまけでくれた)福岡産のマテ貝
食べながら、「めちゃくちゃ美味しい。回転寿司とは全然違うわ」と言うから、妻と僕はまた苦笑いしてしまう。
「今日は特別な日だから、好きなだけ食べていいよ」
って言ってたんだけど、結局、お店に入ってからわずか20分で、
「おなかいっぱいになっちゃった」
とギブアップ宣言。
うん、確かにこの後、ケーキも食べないといけないしね。
なんて言いつつ、僕自身は駅前でたまたま売っていたピザーラのペパロニラバーを自分用に買ったけどね(苦笑)
そして、まだ完全に日が沈む前のネイビー色に染まる空の下、僕らは新しい我が家を目指す。
いつものように妻と息子がよく分からない話でキャッキャはしゃいでいる様子を隣でぼんやり眺めながら、僕はふとこんなことを考えていた。
昨年の今日、君は楽しみにしていたバースデーケーキすら一口も食べられず号泣していたわけだから、もっと感動的な一日になるかなと思ってたけど、なんか拍子抜けするくらいゆる〜い時間が流れてるな〜
「でも、それでいい、いや、それがいい」
と自分の本当の気持ちを確認できた僕は、気づいたらずいぶん前の方を歩いていた2人を慌てて追いかけた。
「待ってくれ〜お父さんだけ置いてかないでよ〜」
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