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心不全(話したかったこと)


昨日、シンポジウムがありクロージングと言うことでお話させていただく機会をいただきましたが、クロージングであり時間なくほとんどしゃべれず、さらに機器トラブルにてスライドも動かないといった大失態でありました。
診療所の薬剤師としてどのようなことを行っているか、知っていただくためのものでしたがおそらくはもうお話しする機会もないので、ここに書きのこしておきます。

*今回テーマは「心不全」ですが、心臓の機能低下している状態であって、おそらく「心不全」というワードで思い浮かべる患者さんの像はそれぞれ大きく違ってくると思っています。
それだけの幅があり、また皆さんが接する機会が多いものでもあります。
シンポジウムという形式でしたので、様々な分野から4名の先生方にお話をいただきました。木を見て森を見ず、ではないですが患者さんのQOLを真摯に受け止め、患者さんの生活、人生、幸せと感じることなど全体像を把握することが大切である。また、地域全体として職種や立場を問わずに、暮らしを支える必要があるということを再確認した次第です。

1.在宅療養支援診療所として

在宅療養支援診療所として、地域での暮らし療養を24時間365体制でサポートするものでありますが、訪問診療でも循環器疾患を持つ方多くの方に関わっており、またこれからも日本全国的にも循環器病、心不全は増加していくことが予想されています。さらには支える側も限界があり工夫が本当に必要となってきました。

令和4年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査によると、訪問診療を受ける患者の疾患では、循環器疾患(高血圧症・心不全など)62.7%と第一位、推計では2040年から心不全患者は200万人を超えてくることが予想されています。心疾患が日本人の主要死因で第2位でもあり、国策としても循環器病対策基本法(平成30年法律第105)、それを受けて循環器病対策推進基本計画、各都道府県で第2期の計画が実施されている状況であります。


https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001077711.pdf

出典 厚生労働省:日本人の主要死因の年次推移、死因統計、「健康寿命における将来予測と生活習慣対策の費用隊効果


2.薬剤師として

*その中で薬剤師はどのようなサポートができるのかを必死に考え実践しています。診療ガイドライン推奨の心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)は急性期ベースではありますが、慢性期になると継続できないという現状があるようです。(STRONG-HF )ひとつには「減薬」、つまり服薬に関しての負担感が大きかったり、経済的な問題、副作用がつらかったりなど心機能とQOLを天秤にかけた結果なのかもしれません。薬剤師へのニーズとして、薬物療法全般がいずれも「本人がただ飲んでいればよい」というものではなく、薬剤の知識にとどまらず、時代の動きや制度、社会を踏まえた患者背景までを考えなければ進まない、高度、先進、複雑、そして多様になっているところに重きが置かれています。

3.心不全、とは

心不全とは、心臓が全身へ血液を送り出すポンプ機能が低下することで、各臓器に送られる血液量の低下や血液の滞り溜まってしまう状態が起こることです。つまり病名というよりも心臓がちゃんと機能しない状態のことになります。原因は様々で、例えば心臓に栄養を送っている大きな血管(冠血管)が詰まってしまったり、細くなってしまったりすることで十分な栄養が心臓の筋肉に届かずに心臓にダメージを受けてしまうことで筋肉がまともに動かなくなってしまう状態になります。
心臓の構造としては、大きく4つの部屋に分かれており、逆流しないような作りになっています。心臓は自分で動かしたり、止めたりできない自律神経の支配を受けています。伸び縮みするゴム風船のように血液を取り込んだり、押し出したりして全身の血液を力強く循環させています。肺を通って酸素豊富になった血液は肺静脈を通って左心房とよばれる部屋に送り込まれます。左心房から押し出された血液は左心室に送り込まれ、全身につながっている大動脈に力強く押し出されます。ぎゅっと、心臓が血液を押し出したとき、血管には圧力がかかりますが、これが(心臓からみた)収縮期圧、血圧でいう「上」であり、左心室に血液をためるため送り出す準備段階が拡張気圧、つまり「下」となります。
そこで、押し出す力が弱くなった場合(左心不全)では、心拍出量が減少するため当然のことながら脳、消化管、腎臓、筋肉、皮膚に対しても届く血液の量、運ばれる酸素や栄養の量が低下してしまいます。
全身を巡った血液は大静脈という大きな血管から心臓に戻りまず右心房に運ばれます。右心房から右心室に運ばれ空気を取り込むために大きく動いている肺をめがけて肺動脈に押し出されます。肺動脈を通り、肺で酸素をたっぷりと取り込まれ肺静脈からまた左心房に運ばれます。
(左心不全と右心不全)
左心不全では左心房がうまく動かないわけですから、肺に血液が滞ってしまう状態「肺うっ血」を起こします。肺で血液が滞ってしまうと、息苦しさが出ます。呼吸困難感、咳、起座呼吸、夜間発作性呼吸困難、頻呼吸ポンプ機能の低下により全身の筋肉に酸素が行き届かなくなるため疲れやすさが出ます。酸素がうまく前進に回らない状態(チアノーゼ)を起こします。
左心室では縮んで全身に血液を送り出す収縮がうまくいかない(左心室の収縮機能が低下すること(HFrEF)によって起こるものと、縮んで送り出す力は保たれているにもかかわらず、血液が左心室に十分蓄えられない、しっかりと広がらない拡張不全(左心室の拡張機能が低下すること)によって心臓へ血液が戻りにくくなり、体内に血液が滞留することで起こるものに分けられます。収縮は問題ないが、拡張できない場合、上と下の差が狭くなる(下が高め)になってしまう。
高血圧=血管の内側にかかる圧力が高いわけですから、心臓から押し出す力が必要となり左心室が頑張り続けなければなりません。高血圧が続くことで、左心室の筋肉が分厚くなったり硬くなったりします。わかりやすく言うと、ゴムの弾力がなくなる状態、膨らませるには大きな力が必要となり、心臓に大きな負担がかかります。
心不全の約半数が拡張機能不全(HFpEF)で、高齢の女性に多く、高血圧や糖尿病などを併存していることが多くみられます。一番多いのではないかと思われるHFpEF、つまり高血圧を放っておくと左心壁が固くなり、収縮力は維持されているのですが大きく拡張しない病態ですが、特徴としても高齢、併存疾患、フレイルから要介護のケースについて、診療所の薬剤師の視点からちょっとお話をさせていただきたかったです。
循環器病の特徴として増悪を繰り返し、予後予測が難しいところ、突然死もありうるところではないでしょうか。

4.事例をあげて(説明したかった)3つのトレンド

(80代前半の女性を例に)
急性期病院からご自宅、療養の場が変わるときにまず連携が求められます。訪問診療となった場合、継続して循環器専門医が訪問できるとも限らず、また循環器専門医と常時連携しながらも理想的ではありますが、難しい場合もあります。

5.トランジショナル・ケア(TC)

①トランジショナル・ケアと呼ばれるもの、つなぎ目ではエラーが起こりやすく、またケアにも切れ目が出てしまう可能性があります。薬剤師としては病院薬剤師と、薬局薬剤師、診療所薬剤師とも連携をとりながら薬物療法を引き継いでいくことを行っています。
医薬品の物流不安定はこのところ大きな問題になっています。たとえば、ビソプロロールが入らないのでカルベジロールはどうか、と薬局から提案あったエピソードをあげました。
臨床倫理的な考え方で、その妥当性を検討しなければなりません。薬効分類だけではなく、先に述べたとおり、導入を行っている訳ではなく導入の経緯を共有しておくことも大事だと考えています。同種の薬剤ではありますが、βブロッカーの特徴を簡単に説明(作用の比較、禁忌について注意について、代謝について、ビソプロロール腎排泄、β1選択制、COPDや喘息でも使用は可能、とカルベジロール肝代謝、β1,β2,α非選択制などの比較とエビデンス)βブロッカーは突然死リスクを下げるエビデンスがありましたね。ただし、心拍数を下げる(運動時に上がりにくい)ため超高齢となった場合には活力に影響があることもあります。喘息やCOPDが併存している場合には簡単に変更できません。糖尿病併存している場合、カルベジロールは骨格筋に作用するので、インスリン抵抗性を改善できる可能性もあり良いかもしれません。…などという話は全くできませんでした。事例として協議の結果、結局はβブロッカーやめたというものです。
生活状況やご本人の認識、認知、能力、医療倫理などもが薬物療法に大きく影響します。

6.シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)


インフォームドコンセント(説明と同意)、服薬コンプライアンス(指示通りの服用順守)、アドヒアランス(患者さん自身が積極的に治療に参加)、コンコーダンス(生活スタイルや気持ちを重視して支援者が調整していく)などと少しずつ考え方、支援の在り方も変わってきました。共有意思決定支援(SDM)として、専門家2名以上、薬局薬剤師と診療所薬剤師での協力で意思決定支援の望むプロセスも重要なのかと思います。

7.アドバンス・ケア・プランニング


③その方にとっての幸せ、もちろんその時々で変わるもので、話し合いを重ねそれを共有しながら皆でサポートしていくことが大事なのだと思います。24時間、365日、ターミナル期ともなるとどうしよう、このまま家にいることもできないのではないか、入院した方がよいのかと不安になります。そのときどうするか。良くなったり悪くなったりとその不安を一緒に乗り越えていく、というのが支えあいになっているのだと感じています。変化があったときにこそ、そのたびに考え一緒に悩むこと、さらにそれを共有して支援にのぞむことがACP(アドバンス・ケア・プランニング)なのではないでしょうか。

今回この3つをトレンドとしてお話させていいただき、クロージングリマークスとさせていただき「たかった」です。…単なる心不全の勉強会になっていなければ幸いです。

在宅療養支援診療所として、その中で薬剤師として頑張っていきたいと思います。

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