チェスガルテン創世記【1】
序章
何もなかった。
何もなかった。天空と大地、飢えと凍え、喜びもなければ言葉もなく、生と死すらも曖昧で、すべては大鍋の中の粥のように、どろどろと混ざり煮え滾っていた。
やがてその虚ろな暗闇から、生まれ出でる者があった。
一方は男で、ヴィセーレンと言った。
一方は女で、アマナと言った。
この世で最初の命であった。
彼らは生まれてきた母なる暗闇から、互いの暮らすべき世界を創ろうと言いあった。
ヴィセーレンは、暗闇より天空を創った。
アマナは、暗闇より大地を創った。
ヴィセーレンの息吹から雲が生まれ、アマナの涙からは海が生まれた。
その雲と海を以って、双方は天と地が決して揺らがず離れることがないように、三本の支柱をたてて天地を繋いだ。
彼らはそれぞれの世界でそれぞれの命が生まれ、天を、地を、埋め尽くすさまを楽しく眺めていたが、互いの世界のどちらからも、自分達と同じ姿を持つものが生まれてこないことに気がついた。
そこでヴィセーレンとアマナはそれぞれ己の指先を噛み切り血を絞り出した。ヴィセーレンは滴る血に吐息を吹きかけ、アマナは盛り上げた土くれにその血を垂らした。
すると天空と大地で、同じ時に、一組の男女が生まれた。
ヴィセーレンとアマナに良く似た男女を、彼らは人間と名付け、天空に生まれた者を天の民、大地に生まれた者を地の民と呼んだ。
天の民はヴィセーレンを、天空と天空に生まれた生き物すべての偉大な父であると敬い、天上の王君と呼んであがめた。
地の民はアマナを、大地と大地に生まれた生き物すべての偉大な母であると敬い、地下の女帝と呼んであがめた。
彼らはそれぞれの世界の神となった。
はたして世界は創られた。
【次話】
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