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サンショウウオの四十九日 朝比奈秋:著

意欲的な作品ではある。選考委員が受賞させたがった気持ちもわかる。冒頭、瞬と杏という姉妹が出てくるのだが、途中でこれはどちらの視点の描写か分からなくなる。これが意図しての表現なら上手いと思う。一つの身体の中に二つの精神が宿るというのは、人間の意識と身体、自己と他者という命題を、ある種一番分かりやすい形で描き出そうとしたのだろうが、結果、発想を超える成果を獲得してはいない気がした。選考委員の川上弘美氏がこんな選評を書いている。

今回一番に推したのは「サンショウウオの四十九日」でした。意識は二人分あるが体は一つ、という設定の結合双生児、「瞬」と「杏」という二人を描いたこの小説は、「自己とは何か」ということを、読書にたくさん考えさせてくれます。でも、作者は、たぶん最後まで「自己とは何か」が分からなかったのだと思います。この小説のよさは、わからなかったそのことを隠していないことです。

芥川賞選評 川上弘美

全く同じだが、私も作者は自分の立てた問いに何ら答えを見出せなかったように感じた。作者は瞬が身体感覚を失い、死を意識した場面で、意識と思考と感情を違うもののように書いているが、一体何が違うのかは何も表現されてはいなかった。個人的には分からない事を隠してない事がこの小説の魅力だと言われても、釈然としないものがある。着想は意欲的だっただけに、色々と惜しい作品であった。

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