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荒地の家族 佐藤厚志:著

喪失の果てに何があるのか?失ったものに上手く折り合いをつけられなかったとしたら、結局最終的に行き着くのは全てを終わりにすること以外ないのかもしれない。そういう意味では、知加子と明夫は全く一緒だ。また、この物語は同じような体験をした者達であっても、結局のところ決して共感し合えない、補い合えないことを示唆している。人間はどこまでいっても孤独だ。じゃあ、何で人は生き続けるのか?そこに何の確かな理由もないことを祐治は本能的に理解している。それは逆説的に人の死にも何も理由がないという事であり、もしかしたらこれは全ての生き辛い人達、特に自分だけが生き残ってしまったという感情に支配されてしまっている人達への微かな救いだと言えなくもない気がした。

明夫が仕込んだ毒が回り出した。体の隅々までいき渡った。頭がぐらぐらして、指先にしびれを感じる。おう、いいよ、俺が引き受けるよ。祐治は思った。俺も道連れにするか。首をくくるというやり方であっても、自分でけりをつけた。だが、お前なんかと心中はまっぴらだ。

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