政治はケンカだ! 明石市長の12年 泉房穂 鮫島浩:著
一部の人の感覚では泉さんというのは暴言市長で止まっているのかなと思う。一方で泉市政を手放しで絶賛する人もおり、なんともアンバランスな感じだ。私は、手放しで称賛するという訳ではないが、それは結局のところどんな思想を持ち、何を成し遂げた人なのか、よく知らないということに尽きる。ただ、出直し市長選に勝利したという事実からも、多数の明石市民から支持されていたのは事実であろう。
そんな私が本書を読んで感じた事は、泉房穂氏の根源的な怒りである。鮫島さんが、泉氏と似ている政治家として古賀誠氏と橋下徹氏を挙げていたのが興味深い。3人とも世の中の不条理に対する強烈な憎しみを政治エネルギーに変換したところが共通していると。確かに、橋下氏と泉氏は出自は似た部分がある。幼少期に自らでは如何ともし難い理不尽な境遇に置かれながら、その闇に呑み込まれるのでなく、怒りをエネルギーに力をつけていった様は非常に似通っている。しかし、一方がその恨みに支配され、社会を壊す側、復讐者になったのに対して、一方は自分も含めて誰一人見捨てない社会を創り出そうと全く逆のアウトプットになったのは非常に興味深い。本書ではあまり触れられていなかったが、泉氏の中に僅かでも公助によって救われた経験があったのではと推察する。
泉氏で有名なのは子育て政策だが、私が一番凄いと感じたのは、市民への権限委譲を一部行なっているという点である。小学校区毎に自治組織を作らせて財源を渡すというのは非常に画期的であり、運営には様々な難しい面もあるだろうが、素晴らしい試みであり、他の自治体も取り入れるべきだと感じた。日本人に根強いお上至上主義を変えるきっかけになると思う。陳情や愚痴ばかり言うのでなく、自分達で考え、自分達で変えていく、この体験を通じて、市民の政治への意識は確実に変わる。そうすれば日本は必ず良くなる。誰かが変えてくれるのをただひたすら待つのが日本人であり、他責で無責任なのが日本人の特徴である。隣の人が餓死しようが表向きは見て見ぬふり。それだけでも罪深いのに、世の中を変えよう、良くしようという稀有な存在が現れると、体制変更を憂う権利側の扇動により、自分達の救世主とも言えるような存在に石を投げつけ意志を挫こうとする始末。自分の頭で考え行動するだけで世の中はずっと暮らしやすくなるというのに。