映画館の妖精
久しぶりに映画館に行った。
すごいな〜、シネコン。
昔の映画館とは異世界。
ふかふかのシートに温かい食べ物。最近は揺れたり風や水が出る所もあるらしい。
昔の映画館はそれはそれで良い場所だった。
座席指定がなく、一度入場したら朝から晩まで見ていられた。
しかも、殆どが2本だて(この言葉も通用するかな?)だから4時間位は映画館にいる。
食べ物の持ち込みも自由で、私も一人の時は家でおにぎりを作ってもらっていた。
今から半世紀ほど前の春、友人と2人でいつものように映画館に出かけた。
小学校を卒業した春休み。
切符売り場で私達は重大なミスに気付いた。
(もう、子供じゃない)
中学の入学式前でうっかりしていたが、4月になっていたのでもう、子供料金ではないのだ。
2人でお財布を確認して頷く。どちらも何とか大人料金でも入場できそう。
「大人、1枚お願いします」
ドキドキ。
「あなたたち、子供料金で入りなさい」
はじめての(大人)に興奮していた私たちに切符売り場のおばさんは言った。
「大人料金で入ったら中で何にも買えないでしょ」
無表情。
やってあげる風でも、感謝しなさいでもない。
お言葉に甘えて子供料金で入場した私たちは席を確保して売店に急いだ。
そこには切符売り場のおばさん。
飲み物とパンを買った私たちに「映画館で何も食べないなんてねぇ」
少しだけ笑顔。
映画の、いや映画館の妖精か?
その日も食べながら飲みながら映画を楽しんだ。上映が終わった時、妖精の姿はチケット売り場にも売店にもなかった。
今でも映画館に行くと時々思い出す。
妖精は誰よりも映画館と、映画と映画を楽しむ人達を愛していたのだろう。
今はあの映画館は無いけれど、映画館の妖精はあの時と同じように判るかわからないかの微妙な笑顔でどこかの映画館にいるような気がする。