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#33 とりとめのないチェアリングの話
何処其処でチェアリングをしただの、したいだの、毎度そんな話ばかりで申し訳ありません。
皆様におかれましては、心底どうでもいい話だろうと心苦しく思っています。
そして、前もって断っておきますが、今回もご多分に漏れず、チェアリングの話になります。ご容赦ください。
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私が何処へ行くのもアウトドアチェアを持って外出するようになって約2年になります。
鴨川縁を中心に、京都だと如意ヶ嶽の大文字の火床、宝ヶ池、大原、八瀬、京都御所、京都植物園などに出没してはチェアに文字通りどっかりと座り、読書をしたり、コーヒーを飲んだり、お酒を嗜んだり、カップ麺を啜ったり、お弁当を広げたりしています。(念の為断っておきますが、ゴミを散らかしたりの迷惑行為はしておりません)
こういう行為をチェアリングと一部の人が呼称しているのを知り、私もチェアリングと呼ぶようになりました。
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3日後に送り火を控える大文字火床
威張れることではないが、私にはこれといって誇れる趣味がありません。趣味にかける時間もお金も持ち合わせていないというのもあるが、そもそも趣味に必要な根気がなければ、元来凝り性でもない。こう言っては何だが、何事にも狭く浅く生きているような気がする。
しかし、この狭く浅い性分が、なんだかチェアリングには合っている気がする。
快適なチェアリングを愉しむため、事前にドリンクや料理を用意する時もこだわりは発揮せず、実に鷹揚に、そして気軽に作っている。
持って行く本だって、以前は書店で吟味して購入した本を持参したが、最近は出かけに図書館に寄ってテキトーに本を選んでいる。買ったわけでもないから、つまらなければやめればいいので、ものすごく気楽だ。
この『気軽』『テキトー』『気楽』が性に合っていて、趣味を持つ素質に欠けている私でもこればかりは続けている。2年も続けているからそろそろ「好きなこと」から「趣味」に昇格してもいいだろうか。
少し前にリヤカーマンというおじさん冒険家がいらっしゃいましたが、キン肉マン風に擬えれば、チェアリングマンですね。超人強度13パワーのお気楽平凡超人チェアリングマン。
でもね、私もチェアリング歴2年の新世代超人ですが、最近鴨川にもチェアリングマンが増えました。
特に今年の春からはかなりの人数の新参者をお見受けします。
川縁でただ椅子に座っているだけの同志が増えたのは嬉しい。反面、鴨川等間隔の恋人同士ではないが、物理的な距離感が近くなるのはちょっと困る。中にはゴミを放置して行くような輩も見かけるので、迷惑している。えぇい、この悪行超人め、成敗してくれる。
ところで、アウトドアチェアを手に入れる前はどうしていたのだろうか。
あの頃の私は、雑貨屋見つけた厚手のピクニックシートを広げていたんだっけ。
ピクニックシートの良さは何といっても寝そべることができるところだと思う。よく乾いた平らな地面があればさっと広げ、寝そべることができる。そのままその辺に生えてるぺんぺん草とかクローバーをむしって口に咥え、岩鬼さながらお天道様を見上げることもできる。
なんてワイルドなんだろう。
ただ、長時間滞在には向いていない。30分も同じ体勢で居ると背中も腰も痛む。更には地面からの湿気に下着まで湿ってしまう。
その点、アウトドアチェアは組み立てと片付けにそれぞれ1分程度時間がかかるものの、一度組み立てて座って仕舞えば、余程の長時間でない限り腰も背中も痛まず、下着が濡れることもなく快適に過ごすことができる。
日が傾いて、自分がいる場所が陽に差し込まれても、軽いのでサッと持ち上げて木陰に移動することもできる。
それに雑草を咥えちゃえすれば、チェアだろうが岩鬼にだってなれる。
というわけで、今では圧倒的にアウトドアチェアの方に軍配が上がる。ピクニックシートは荷物を置くのに使っている。
***
ピクニックシートを持って彷徨っていた頃〜2009年とか2010年だった〜私は神田神保町で働いていて、妻ではなくまだ恋人だった連れ合いは天王洲で働いていた。
当時流行っていた大型スクーターで通勤していた私は、仕事を終えるとその足で彼女を迎えに行き、レインボーブリッジを渡り、お台場へ向かった。レインボーブリッジから見下ろす夜のフジテレビの社屋はグリコのオマケのよう。目的地はこれまたおもちゃのような、でも本物のような、潮風公園に立つ実物大ガンダム立像だった。
正式な展示(お目見え)を数日後に控え、ガンダムは頭部まで全て部品が取り付けられ、目や肩が光る発光ギミックや両胸や足首、背中からミストを噴射するギミックの、技術者による最終確認中だった。
公開より一足早くその姿を写真に納めようと集まった三脚カメラを持ったマニアたち、お台場デートをしてこの後どうする的な散歩をしているうちに偶然居合わせたカップルなんかと一緒に、テム・レイさながらまさに「ガンダム大地に立つ!!」の試運転を眺めていた。
こうして2009、2010年はガンダムを見に昼夜を問わず熱心にお台場に通った。
と同時に、お台場にはもう一つ目的地があった。(ここからが本題)
都立台場公園。品川第三台場砲台跡付近。
今でこそお台場といえば、一般的にフジテレビ本社やアクアシティがある場所を指すと思うが、幕末から「御台場」といえば、開国を迫るペリー艦隊を脅威に感じ、品川沖に築造された品川台場のことを指していた。
江戸幕府は六つの台場を完成させたが、現在に至るまでに第三台場と第六台場が残され、第三台場は公園に、第六台場は自然豊かで学術的にも貴重な史跡として無人島状態で海上に保全されている。
その第三台場砲台があった公園は、今は知らないが、当時は人がほとんど寄りつかない穴場だった。
所謂、現在の「お台場」からレインボーブリッジに向かって人工浜を進む。徐々に人気がなくなり、端までいくと緑道が現れ、その緑道を進むと東京湾に突き出した出島のような四角形の広場に出る。
其処が第三台場砲台跡で、その突先でピクニックシートを広げるのが最高の時間だった。
夏場は潮風も気持ち良く、目の前をパノラマで広がるレインボーブリッジの下に東京にビル群。間からのぞく東京タワー。そして湾内に漂う数々の屋形船。百点満点の夜景、東京湾景だった。
ビッグスクーターで向かう道すがらや私たちしかいないこの突崎に合うBGMは、井上陽水『Tokyo』とTHE BOOM『東京タワー』。
——もう若くない、と思っていたけれど、まだまだ若かった。
今度はチェアを持って行きたいな、という、とりとめのないチェアリングの話。