#38 私に送る「より良い大晦日の過ごし方」
昨年の大晦日、どうやら私は『紅白歌合戦』を見ながら年越し蕎麦を食べ、そのままテレビの前で『ゆく年くる年』を見届けた後、初詣に下鴨神社へ出かけようとしたら雨が降っていたので諦め、仕方なく『ぐるナイおもしろ荘』を眺めていたら、いつの間にか寝入ってしまい、元旦を迎えたらしい。
……というようなことが『#19
新年のご挨拶〜2024』を読み返してみたら書いてあった。
雨や雪が降らない限り、大晦日から新年にかけての過ごし方が、上記のようにルーティン化している。
このような新年の迎え方に不満はない。むしろ昭和から続くザ・庶民代表、トラディショナルな大晦日を体現しているようにも思え、これはこれで悪くない考えている。
一年を無事に終えられる幸せを噛み締めながら、除夜の鐘の音に耳を傾け、静かに過ごすのも乙ではなかろうか。
でもここ数年、この過ごし方にもうひとつある行動をしておけば良かったと後悔していることがある。
ついつい面倒臭くなって手短に済ませることが後に後悔を引き起こす。
ふとした時に思い出しては、あの時ああしていればもっといい大晦日だったのに思うのである。
そこで私は半年後の私に後悔なく過ごせるように、提言を残すのであります。
「何それ!」という声が聞こえてきそうだけど、私による私のための提言。
宜しければ、最後までお付き合い下さい。
***
2024年12月31日。
6時半に起床することにしよう。
まだ薄暗い中、まずは窓を開けて部屋の空気の入れ替え。吐く息は白い。比叡山の頂上付近を見るとうっすらと雪が積もっているようだ。
歯磨きと洗顔が済んだら、窓を閉めてエアコンで暖房を入れ部屋を暖める。やかんで沸かした白湯を飲んで、玄関のハルオチアに水をやろう。
そうこうしているうちに、日の出の時間になる。
朝食の準備をしよう。
ブルーレイレコーダーに大量に撮り溜めてあるBS日テレ『小さな村の物語 イタリア』のどれか1話を適当に再生しながら朝ごはんの下拵え。
ナレーターの三上博史は落ち着いた声だから少々音量を大きくしたところで隣の部屋で寝ている連れ合いを起こすこともないから安心だ。
朝食は、前日もしくは数日前に『ナカガワ小麦店』で買っておいたバゲットとクロワッサンを焼くことにしよう。もちろんそれだけでは足りないから、冷蔵庫の余り物でパスタでも拵えよう。先日のひき肉とカブのあんかけで使った大原のカブが余っている。カブと玉葱とベーコンと鷹の爪でペペロンチーノと作ろう。温かい飲み物も欲しいので、粉末のコーンスープも足すことにしよう。
カブを薄目の半月切りにし、葉の部分は細かくみじん切り。にんにく三片を包丁の腹で潰して、ベーコンを一口大に切っておこう。玉葱も半玉ほどスライスしておく。
あとはパスタを茹で、コーンスープに使う大量の水を鍋に入れ、コンロにセット。バゲットとクロワッサンもトースターにセットしておく。
カップに粉末のコーンスープも開けておく。
これで下拵えは終了。
連れ合いが起きてくるまで、そのまま『小さな村の物語 イタリア』を1話分観て、さらに余った時間はソファで寝そべって本を読もう。
何周目だろう。適当に開いたページから読む村上春樹『遠い太鼓』。
気がつくと、うつ伏せのまま眠っていた。
スマホの時計をみると9時半。そろそろ連れ合いも目を覚ますだろう。
コーンスープ分を先に取り分けておいた大量の湯を沸かし、パスタを茹でる。
たっぷりとオリーブオイルが引かれたアルミ製のフライパンに、鷹の爪とにんにくを投入。玉葱も入れて十分に火を通したところで塩とベーコンとカブを入れる。
コンロを使う音と匂いに誘われ、連れ合いがリビングに出てきた。
彼女が顔を洗っている間に一気に料理を仕上げてしまおう。
歯応えがあり少しプリっとした状態が好みの私は表示より大体2分早めにパスタを上げてしまう。少量の茹で汁と一緒にパスタをフライパンに上げ、刻んでおいたカブの葉を加えて炒めながら混ぜ、ほんの少し醤油と追いオリーブオイル。最後にペッパーミルで黒胡椒を挽いたら完成。
トースターのバゲットとクロワッサン、カップにお湯を注いだコーンスープ、冷蔵庫で冷やした炭酸水をテーブルセッティング。
「おはよう」と「いただきます」がほぼ同時。テレビはもう一話『小さな村の物語 イタリア』を再生する。
テレビ画面のイタリア人の生活のあれこれに感想を言いながら、ゆっくり時間をかけて朝食をとる。
食事を済ませ、洗い物を済ませると時刻はもう11時半。
連れ合いは洗濯機を回し、掃除機をかけ始めた。
彼女が掃除機をかけている時、私は完全に邪魔者になるので、大晦日まで手付かずになっていた台所の換気扇と窓掃除をするため、換気扇のフィルターを買いに近くのホームセンターに出かけることにした。
換気扇のフィルターと洗浄剤を買って家に戻ると、掃除機かけは終わって洗濯物を干すフェーズに入っていることだろう。
私は換気扇分解して、整流板、ファン、フィルター、それらを取り付ける部品に溜まった油汚れをカビキラーやスチームクリーナーを駆使して落としていく。
窓と網戸も外して磨いてしまった。
全てを洗ってベランダに立てかけて乾かすと、14時半を過ぎていた。
さて、今度は汗と煤と油で汚れた身体を洗いに行こう。
着替えとボディーソープ、歯磨きセットを持って近くの銭湯に行くことにする。どちらも行ったことがない、『栄盛湯』か『鴨川湯』。空いていそうな方に自転車を走らせる。
銭湯に到着すると、体を洗った後、サウナ12分と水風呂5分を3セット、時間がある時は5セット行う。
大晦日たっぷりと時間がある。サウナで汗をかき、水風呂で身体も頭も冷やす。目を瞑ると少し天地がひっくり返りようにクルクルと回っている感覚がある。
いつもこの瞬間、ふわふわとして猛烈に幸せを感じる。悩みや疲れなんて回転した時の遠心力で外に吹き飛ばそう。
約2時間、サウナと水風呂を中心に過ごし、最後にちょっとだけ湯船に浸かる。
風呂上がりに持参してきた炭酸水を飲む。
銭湯を出ると、あたりは暗くなっている。時刻を見ると17時15分。
帰りに『カナート洛北』に寄り、晩酌に合いそうなお惣菜を探す。なるべく値引きになっている物の中から選ぶようにする。私には値引き品の方が『値引き』というスパイスが効いて美味く感じるような意地汚いところがある。
料理は、唐揚げとか肉団子とかポテトフライの盛り合わせとかローストビーフ的なやつとかエビマヨサラダとか、きっとそういうのを選ぶだろう。
家に戻ると18時を過ぎている。
買ってきた惣菜をトースターやレンジで温め、食べながら冷えたビールを飲む。
年末の上野アメ横商店街の生中継の様子などを見ているうちに『NHK紅白歌合戦』が始まる。
私はほろ酔いのまま、台所に立ち蕎麦を作る。
1週間前から既に用意してある『松葉』の蕎麦セットとたっぷり刻んだ九条葱で自分用ににしん蕎麦と連れ合い用に天ぷら蕎麦を作る。
こうして年越しそばを食べながら『紅白歌合戦』と『ゆく年くる年』を見て、日付が変わったら下鴨神社にお詣りに出かける。
***
さて、どうってことのないいつもの大晦日だった。
ちょっと違ったのは、大掃除を終えた後に、銭湯に行くところ。
一年の疲れを銭湯に行って癒すのだ。
実は昨年一昨年と銭湯に行こうと思いつくものの、つい外に出るのが億劫になり、換気扇や網戸を洗うついでに自分まで裸になってシャワーを浴びてしまうことになるのだが、これがその後の一年間、ことあるごとに「あの時シャワーじゃなくて銭湯に行けば良かった」と思い出しては悔やむことになる。
後悔が募ってこんな文章まで書くことになる。
「大掃除の後、シャワーを浴びずに銭湯に行け!」
これが半年後の私に送る、提言だ。半年後の私よ。これを読んで実行して頂きたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?