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#61 旅行記の進捗と悲しき私のポメラ
noteの記事で『ポメラ』という単語を見かけた時、古い友人の名前を見かけたような“懐かしさ”を感じた。
ポメラニアンをさらに小さくしたような犬種の一種かしらん、と見当違いな考えが浮かんだが、すぐに思い直し、“懐かしい”と感じた己の直感を信じ、頭の中で呪文のようにポメラと繰り返した。
ポメラ、ぽめら、pomera……。
脳内でローマ字に変換された時、それが自分も所有している『コンパクトさと、打ちやすさ両立を追求した折りたたみ式キーボードと見やすい液晶画面を搭載したテキスト入力装置(メモ帳)』(説明書から抜粋)の商品名だと合点がいった。
***
キングジム社『ポメラ』。
尤も私のはnoteの記事でお見かけする2022年発売のポメラDM250でなく、その前身で初代機となるDM10。
調べてみると2008年発売とある。
記憶が正しければ2009年、会社の帰りに寄った秋葉原のヨドバシで3,980円とかでワゴンセールに出されていたのを購入したものである。
当時から何かを書きたいという漠然とした欲求はあったものの、実際に書こうすると何を書いたら良いかわからない。
そういう時はとりあえず日記でもつけてみるかと思うもので、翌年に所帯を持つ予定だった私は、準備期間の同棲生活からポメラを使って日々の記録を残すことにした。
これには、後になって読めるようにまとめれば、連れ合いに喜んでもらえるかもしれない、冊子にすれば何周年記念とかのプレゼントになるかもという下心もあった。
手帳に1日の行動を箇条書きで記録して、4、5日分溜まったら仕事帰りに西大井駅前のマクドナルドでポメラを使って1日数行の日記の体裁に整えていく。
そんなやり方で半年分くらい書き溜めただろうか。
ある程度の文章量が溜まったところでポメラ本体のテキストをUSB保存しようとした時に悲劇は起きた。
皆さんの予想通り、誤って幾つかのデータを消去してしまったのだ。
これには自分自身に心底がっかりした。と同時に自分のためというよりは、前述したようにあわよくばプレゼントにという企みがあったからか、日記に歯抜けが生じるのが許せないと、要らぬところでA型気質が爆発し、それを理由に日記をつけるのやめてしまった。
てめえの日記に歯抜けがあったとこでどうってことないじゃないかという風に考えられなかった尻の穴の小さい私は、ポメラを見かける度にデータを消去した己の愚行を思い出すのが嫌で、物置の奥に突っ込んでしまった。ポメラにしてみればとんだ八つ当たりもいいところだ。
2010年。こうして我がポメラは物置きの奥に厳重に封印されたのだった。
***
あー、『ポメラ』って懐かしいな。
小さくて軽量でキーボードが折り畳み式で電池で動く、使いやすかったのに何故か4,000円以内で売られていたヤツだ。
noteでポメラ愛溢れる記事を幾つか目にして、ヨドバシで厄介者のように叩き売りされていたポメラD10のことを思い出した。
当時は日記をつける以外に使用目的が浮かばなかったが、今ならずっと書きたいと思いながら書けずに往生している旅行記を書き起こすのにうってつけなガジェットだと思った。(ガジェットって言葉を一回使ってみたかった。なんかかっこよくない?)
よく晴れた日に、徒歩もしくは自転車で鴨川縁へ出掛け、ogawaのチェアを広げる。傍には読みかけの本と温かいほうじ茶を詰めた魔法瓶と少しの甘いお菓子。
鴨川の木陰で二つ折りされたポメラのキーボードを開け、文章を入力する姿を想像すると、ものすごく捗りそうな気がした。
思い立ったが吉日!善は急げ!
こうして10年前の引越時からダンボールに押し込んだままのポメラの捜索を始めた。
どの箱に入れたか失念していたため発見までにそれなりの時間を要すると覚悟していたが、拍子抜けするほど呆気なく見つかった。
グローブとかキン肉マン消しゴム入ったサカイ引越センターのパンダの絵が印刷されたおもちゃばかり集められたダンボールに、ポメラは買った時の箱に元通り入れられ、大事に保管されていた。
どれどれと箱を開き、これまた購入時に包まれていたクッション性がある袋を開けると、まるで雛人形のように恭しく鎮座していたポメラが姿を現した。
ポメラ本体とは約15年ぶりの再会である。久方ぶりの対面にもかかわらず新品同様の変わらぬ姿に感激した。
変わらぬ外見に安堵した束の間、ポメラ本体を取り出そうとした時に異変を感じた。
何だこれは。
ベトベトと粘り気を感じるのだ。
二つ折りのキーボードを開こうとすると、本来ならスライドして開くキーボードが開かない。途中まではなんとか開くのだが、粘り気が邪魔し完全に開ききらない。
少し力を入れて押すと、ネジがポロリと転がり落ちてきた。よく見ると蝶番部分が破損し、元に戻らなくなってしまった。
なんじゃこりゃ。
調べてみると、ポメラD10には表面にラバーコーティングを施しているため経年劣化すると加水分解して表面がベタベタになるという致命的な欠陥があり、ネット上で何人もの人が悲鳴を上げていた。
箱から出したばかりの使い物にならないD10を抱え、私の鴨川縁でチェアリングしながらポメラで書き物をするというビジョンが完全に打ち砕かれしまった。
というわけで、旅行記については前回の『#35 シーン表からはじめてみよう』から進捗がございません。
以上、うだうだと2,000字ほどかけて約7ヶ月間進められていない旅行記の言い訳をさせていただきました。
それでも外で書き物をするというアイディアは捨て難いので、ポメラの代わりにBluetooth接続のキーボードでも買って、iPad相手にポチポチとやっていこうと思います。
暖かくなるまでにお気に入りのキーボードを見つけ、3月くらいから週末に外で書き物でもしようかな。
先日の『文学フリマ京都9』で大いに刺激をもらったので、文章と残っている写真でどうにか小冊子をでっち上げていこうと思います。
もし鴨川(賀茂川・高野川)で口呼吸が煩いおっさんが居ても、どうぞ温かい目で見守っていただきますと幸いです。
(2月9日追記)
初出の際、この記事に見出し画像は無く、改めて本日にポメラを撮影し見出し画像として表示させました。
その際、私がヨドバシ秋葉原店で4,000円以下で買ったとの記憶が誤りだったことが判明いたしました。
Amazonで税込15,680円で購入した納品書兼領収書が箱の中から出てきたのです。
それを見て正しい記憶が蘇りました。
4,000円以下でワゴンセールされているのを見てポメラを知り欲しくなったのだが、その場では購入せず帰宅したのだった。後日どうしても欲しくなりヨドバシに寄ったら既にセールは終わっていて、仕方なくAmazonで注文した、が正しかったのだ。
3,980円だと勘違いしてたから加水分解にも寛容な記事を書いていたのだが、15,680円となると事情は変わってくる。
今猛烈に悔しさが込み上げている。