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#37 Perfect timing “Eyes to me”

高校生の頃、通学で東急大井町線を利用していた。毎朝、大井町から大岡山で目蒲線に乗り換え、蒲田方面へ……。
まさに平凡な高校生。判を押したような日々を送っていた。

当時の通学のささやかな楽しみといえば、毎週月曜に発売される週刊少年ジャンプを読むことと、当時の流行歌をカセットテープにダビングした曲を、小遣いで買ったWALKMANで車窓の景色と重ねながら聴くことだった。

KAN、CHAGE&ASKA、B'z、KATSUMI、楠瀬誠志郎、山下達郎、UNICORN、岡村靖幸、大沢誉志幸、米米CLUB、Guns N' Roses、Yngwie Malmsteen……。

そんな時代だった。

***

高校1年のある朝、季節は夏の手前だったと思う。
徒歩通学だった中学とは違い、ようやく高校の電車通学にも慣れた頃、いつものように乗り換えのため大岡山で下車し、跨線橋を渡って目蒲線のホームで蒲田行きの電車を待っていた。

WALKMANからは、ついこの間リリースされたばかりのDREAMS COME TRUE『Eyes to me』が再生されていた。イントロ無しで、いきなり元気でキャッチーなメロディが印象的なあの曲だ。

ブルーのシャツ着たら
すごく似合う
朝も 夕焼けにも

Eyes to me 歌詞

目蒲線が目黒方面から私のいるプラットホームに滑り降り、ゆっくりとドアが開き乗客が降りてくる。
私は目の前の扉ではなく、進行方向側ひとつ隣の車両のドアから降りる乗客をイヤホンから流れる『Eyes to me』を聴きながらぼんやりと眺めていた。

その時、ホームに降り立ったのが男女3人組だった。
どこかで見たことがある3人組——目の焦点を合わせると、吉田美和、中村正人、西川隆宏だった。

彼等はギターとかキーボードと思われる楽器や機材が入った黒い箱を手分けしながらホームに置き始めた。
電車で移動するには結構な荷物だったが、3人とも笑顔でとても楽しそうに見えた。中でも吉田美和はとびきり笑顔だった。

私は彼等が今降りたばかりの電車に入れ違いで乗り込み、車両の中からホームにいる彼等の姿を目で追った。

ドアが閉まり、電車は発進した。

ドア越しにドリカムの3人まで僅か数メートルまで接近し、並び、そして彼等を追い越す瞬間、イヤホンから聞こえる『Eyes to me』は、2度目のサビに到達した。

こっち向いて笑って照れないで smile smile smile
私だけにくれるあの顔で Eyes to me

Eyes to me 歌詞

これ以上ないタイミングだった。

smile smile smile——。

歌詞のsmileと目の前のドリカム3人の笑顔が完全に一致した。

当時、フジカラーSUPPER HG400のキャンペーンソングだったこの曲は、CMで起用されていた観月ありさが大人っぽくて初々しく可愛らしかったのも一役買って、もの凄く爽やかな印象を見るものに与えていた。

その曲を聴きながら、僅か数メートルの目の前に、自信と才能に満ち溢れた若きDREAMS COME TRUEの3人を目の当たりにして、高校1年生の私は圧倒されていた。
楽曲の持つイメージと彼等から発散されるオーラが見事にオーバーラップした。

私は興奮を押し殺したままWALKMANの曲が終わるのと彼等が視界から消えてしまうのを、名残惜しむようにして見送った。

この日から私の中で『Eyes to me』のMVは脳裏に焼き付いたこの時の映像だ。
どんなMVより鮮烈に色濃く私の中に残っている。

***

翌朝。
同じ時刻、同じプラットホームの乗り口で、「昨日はここでドリカムを見たんだ、あんな偶然は二度とないんだろうな」と昨日の奇跡にような出来事を反芻しながら電車が来るのを待っていた。

目蒲線がやってきた。
人が降りてきた。

またもや私の瞳に男女3人組が映る。

DREAMS COME TRUE、だった。

2日連続、全く同じ時刻、同じ場所でドリカムの3人とすれ違った。

レコーディングスタジオとかが近くにあったんだろうか。

1991年仲夏。
嘘のような本当の話。

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