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Photo by
hamahouse
サヨナラ
あの日、とても寒い夜のことだった。
いつもより厳重に戸締りをして、
うちの中を暖かくした。
えびのスープを作って食べた。
おいしかった、とても。
悲しみというものは、
気がつくとすぐそこまで迫っている。
苦労なんて当たり前だと思っていたけど、
見当違いだったのかもしれない。
こんなにも悲しいなんて。
寂しいわけではない。
静かに一人で過ごすのは、
好きだったのだから。
せめて、猫でもいてくれたら、
そんなことを考えたりもしたけれど。
ただ、私には猫を養う余裕はない。
違う、そうじゃない。
つまらないことを考えてしまうのは悲しみのせい。
適当に過ごせたらよかったのに。
どうしてこんなことになったのか、
なんでこんな思考に陥ったのか、
人間って大変だ。
抜け出せなくなる時がある。
眠ってしまえば忘れるよ、なんて
のんきな人にあこがれる。
はみ出したくなかったけれど、
人の顔色をうかがってばかりの自分が嫌い。
蓋をしたままだった気持ちの鍵をそっと外した。
偏屈な私でもいい。
本当の私は弱いから、
真面目なふりをしていただけ。
みんなからの期待に応えようとしていただけ。
無理をすることが当たり前だった。
面倒なことだって嫌がらずにやってきた。
もうたくさん。
やめてやる。
勇気がなくて「NO」が言えなかっただけ。
ようやく鍵が外れた、飛び出してやる。
ランドセル背負ってたあの頃の私にサヨナラ。
理由なんてなんでもいい。
ルーズな人だと言われてもいい。
連絡なんてしない。
ロボットみたいな社会には戻らない。
私は変わるから、弱い私と手をつないで強さ
を捨てて出ていく
んだ。悲しみにもサヨナラを。
考えている間は無心になれる。
この時間が好きだな。