アメフラシ
アメフラシは考えていた。
いつになれば、
うみの底からぬけだせるのか。
エンドロールはいつだろう。
おもえば、
かわいいあの子に会いたいだけ。
きがつけば考えている。
くちびるはふっくらとして、
けっして主張せず、
こどものようにくるくる動く目、
さらさらとこぼれ落ちる黒髪。
しってしまった、
すてきな気持ち。
せっかく出会ったから、
そっと触れられてみたい。
たくさんの愛をそそいで、
ちかくで寄り添ってみたい。
つまりは、
てをつなぐように、
ともだちになりたかっだけ。
なのにあの子は、
にんげんだった。
ぬれたアメフラシの瞳、
ねむれない夜をひとり過ごす。
「のぞみがあればいいのに…」
はてしない夢をみる。
ひとりぼっちでも平気だったのに、
ふたりがいいと思ってしまった。
へとへとになって目を閉じる。
ほかでもない僕はアメフラシで、
まさか君に触れてもらえる日が来るなんて。
みつめる黒い瞳、
むりな望みじゃなかったのか。
めとめが合う。
もとから友だちだったかのように、
やさしげな視線を僕に向ける君がいる。
ゆらゆらとした波の合間に、
よりそう僕ら、
ランプような柔らかい月の光が落ちる。
りょう手がない僕にできること、
ルビーのように煌めく君を見つめるだけ。
レンズ越しにながめるような、
ろくでもない僕の視力だけど、
わすれられない君の顔。それ
を、ずっと胸に包んで生きていく
んだ。僕のエンドロールはまだ先のこと。
寝つきの悪い夜には、あいうえお作文。
眠れそう。