濡れたワンピース
わたしが小学生になるよりも少し前の、夏の思い出だ。小学生の姉2人と、歩いて10分ほどの近所の川に遊びに行っていた。姉たちとわたしは川の中に入り、魚を追ったりして遊んでいた。遊んでいた場所は、それほど深さのない所で、小さなわたしでも、膝下くらいの深さだった。
川の中では、ハヤの子が泳いでいた。すぐそこにいて、手で掬って捕まえられそうなのである。わたしは、川の中にそっと手を入れて、ハヤの子を掬おうとした。けれど、ハヤの子たちはすばしっこく、するりとわたしの手をすり抜けてしまう。私が掬うのは、川の水ばかり。わたしは夢中になっていた。場所を変えようと足を踏み出した時、足元の苔でつるっと滑った。わたしは、川の中に尻もちをついてしまった。それを見た姉たちがわたしを起こしにきてくれた。姉たちに手を引っ張られ、立ち上がったわたしはずぶ濡れだった。
その日、わたしはお気に入りのノースリーブのワンピースを着ていた。紺色の生地に、カラフルな水玉が散りばめられた膝丈のワンピースだ。尻もちをついたわたしの胸の下あたりまで、ワンピースは濡れていた。濡れた部分の生地は、濃紺になっていた。姉たちは、何やら話し合っていた。そしてわたしをもう一度川の中に座らせると、今度はわたしのまだ濡れていないワンピースの部分に、川の水をかけ始めた。わたしのワンピースは、あっという間にずぶ濡れになり、紺色のワンピースは濃紺のワンピースになった。姉たちのおかげで、ワンピースは、余すとこなく濡れた。
それこそ、姉たちの意図したところだった。話し合った結果、ワンピースの濡れたところと濡れていないところで色が違うとおかしいので、全部濡らしてしまうおう、ということだった。わたしは、ずぶ濡れのワンピースで、姉たちと一緒に家に帰った。びしょ濡れのまま、商店街を歩いて帰った。肌に張り付くワンピースも、不快ではなく、楽しかった。子どもの頃、とても自由で楽しかったなあ、と思い出す。しあわせな時間だったと思う。
ノースリーブの水玉ワンピース、今でもしっかりと思い出すことができる。白い襟のついた、かわいいワンピースだった。