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哀しいホスト 第10話 ミサの魅力と新たな始まり
第10話 ミサの魅力と新たな始まり
ミサとの初対面の夜は、俺にとって特別なものになった。彼女の魅力に心を奪われたのは、単なる美しさや銀座の洗練された雰囲気だけではない。その裏にある、深い孤独や重厚な人生の経験が、俺の心を引き寄せたのだ。
あの夜、銀座の高級クラブを後にしてからも、ミサの存在が頭から離れなかった。新宿に戻り、いつものようにホストとしての仕事に戻るが、彼女のことが心のどこかで常に響いていた。彼女の静かな笑顔、落ち着いた話し方、そして言葉の奥に隠された何か、それが気になって仕方なかった。
数日後、俺は再び銀座に足を運ぶことにした。正直なところ、ホストとしての俺にとって銀座のクラブに通うのは不自然なことだった。だが、ミサとの再会を望んでいた自分に気づいた時、その気持ちに逆らえなかった。
クラブに入ると、ミサは前回と変わらず、店内の空気をまるで魔法のように支配していた。彼女の姿を見ると、俺は自然と微笑みがこぼれた。彼女もまた俺の存在に気づき、軽く手を挙げて挨拶してくれた。
「キクさん、また来てくれたのね。嬉しいわ」
彼女の言葉は優しく、しかしその瞳にはどこか寂しさがあった。ミサは表面的には完璧なママだが、彼女の中には誰にも言えない重たい思いが隠されているのではないか!?そう感じた。俺は彼女の前に座り、また静かな夜が始まった。
「銀座のこの雰囲気、俺にはまだ少し慣れないな。新宿とは全然違う」
俺は自分の気持ちを正直に言葉にした。ミサは微笑みながらグラスを傾けた。
「そうね、銀座は新宿とは違うわ。ここでは、みんな仮面をかぶって、完璧な自分を演じることが求められる。でも、キクさんもホストとして同じような世界にいるんじゃないかしら?」
彼女の言葉は鋭く、しかし温かかった。確かに、俺たちホストも毎晩仮面をかぶり、客を楽しませるために自分を演じ続ける。ミサの言葉には、その深い理解が感じられた。
「確かに、俺もそうかもしれない。でも、ミサさんの前では仮面をかぶらなくてもいいような気がする」
思わず口にした言葉に、ミサは驚いたように目を見開き、それから小さく笑った。
「それは嬉しいわ、キクさん。でも、私もあなたと同じよ。ここではママとして振る舞うのが私の仕事。でも、本当の私は誰も知らない……もしかしたら、自分でも分かっていないのかもしれない」
ミサの言葉には、彼女が抱える孤独が滲んでいた。成功したママとしての華やかな顔の裏に、彼女は自分自身を見失いかけているのだろうか。彼女の言葉は、俺の胸に深く突き刺さった。
「ミサさんも、そう感じてるんだな……俺もだ。ホストとして成功しているように見えるけど、心の中はいつも空っぽでさ。何を目指してるのか、何のためにやってるのか、分からなくなることがあるんだ」
俺は自分の素直な気持ちを彼女に打ち明けた。彼女の前では、無理に強がる必要がないと感じたのだ。ミサは静かに頷き、俺の話を聞いてくれた。
「キクさんも……そうだったのね。私たち、似てるのかもしれないわね。どんなに成功しても、どこかで自分が満たされない感覚を抱えている」
そう言いながら、彼女は俺をじっと見つめた。その瞳の奥には、彼女が夜の世界で抱えてきた苦しみや孤独が垣間見えた。彼女は、俺と同じように何かを探している。夜の世界で成功しながらも、心の中には空虚感が残っているのだ。
「キクさん、またいつでもいらしてくださいね。お話するのが楽しいわ」
ミサはそう言って微笑んだ。俺は再び頷き、彼女との再会を心から望んでいる自分に気づいた。銀座の夜は、新宿とは違う静けさと奥深さがあり、ミサとの時間は俺にとって特別なものになっていた。
この再会が、俺の人生にどんな影響を与えるのか、その時はまだ分からなかったが、ミサとの出会いが俺の心に何かを変えるきっかけになる予感がしていた。
つづく