毒親 第61話 新たな証拠
第61話 新たな証拠
再び田嶋のオフィスに忍び込む計画を進めていたサキ。カイと美和も協力を申し出たものの、サキの自信に満ちた態度に違和感を覚えずにはいられなかった。
「サキさん、どうしてそんなに病院の内部事情に詳しいんだ?」カイが率直に尋ねた。「普通、そこまで知っているもんじゃないだろ。」
サキは一瞬言葉を飲み込むような表情を見せた後、静かに口を開いた。「実は、私はこの病院で働いていたの。数年前まで、看護師をしてたのよ。」
「えっ?」美和が驚いた声を上げた。「そんな話、初めて聞いたわ。どうして今まで隠してたの?」
「隠してたわけじゃない。」サキは少し困ったような笑みを浮かべた。「ただ、特に話すタイミングがなかっただけ。私が病院で働いていたのは、前の話だから。」
カイはその説明に納得しながらもうなずいた。「だから病院の構造や、田嶋のオフィスの場所なんかも知ってるんだな。」
「そういうこと。私は何度もあのオフィスに出入りしてたから、彼がどう動くのか、なんとなく予想がつくの。」サキの声には覚悟がにじんでいた。「この知識を生かさないなんて、ないわ。」
美和は眉をひそめながら彼女を見つめた。「でも、それだけ田嶋の近くで働いていたなら、彼の異常さにも気づいていたんじゃないの?」
サキは少しだけ視線を落とした。「正直、彼が患者に冷たく、職員にも横柄だというのは当時から知ってた。でも、こんな大きな不正をしてるとは思ってなかった。ただ……今振り返ると、不審な点は確かにいくつかあったの。」
「例えば?」カイが興味を引かれたように問いかける。
「処方箋の変更や、患者への説明が不自然だったり、彼の指示で急に治療方針が変わることがあったわ。でも、私にはそれを追及する権限がなかったし、何より、上司に逆らう勇気がなかった。」サキの声は少し苦しげだった。「それでも、お姉ちゃんの件がきっかけで、あの時見過ごしていたことの意味がわかったの。」
サキは当時の自分を思い返していた。若かった頃の彼女は、仕事に熱意を持っていたものの、医療の現場の厳しさや、権力を持つ者に立ち向かう難しさを痛感していた。その結果、精神的に不安定になり、病院を辞めることになった。しかし今、かつての職場が再び彼女の人生に絡みつき、大切な家族を守るために立ち向かわなければならない状況に置かれていた。
「でも、証拠が足りない。」サキは心の中で決意を新たにした。
その夜、サキは再び田嶋のオフィスに向かう準備を進めた。看護師として働いていた頃の知識をフル活用し、カイと美和とともに計画を練った。
「私がオフィスに忍び込む間、カイは廊下で見張りをお願い。美和は病院の外で待機して、何かあればすぐに警察に通報して。」サキは冷静に指示を出した。
「分かった。でも、サキさん、気をつけてくれよ。」カイは真剣な表情で彼女を見つめた。「何かあったら、すぐに逃げるんだ。」
「ありがとう、お兄さん。でも、私はこれをやり遂げなきゃいけないの。」サキの声には揺るぎない決意がこもっていた。
夜更け、病院の廊下は静まり返っていた。サキは制服をまとい、堂々とした足取りで看護師用エリアに入った。数年前とほとんど変わらない病院の配置に、彼女は少しだけ懐かしさを覚えた。しかし、それ以上に緊張感が彼女を包んでいた。
オフィスの前にたどり着くと、カイが小声でささやいた。「気をつけろよ、サキさん。」
「大丈夫。行ってくるわ。」サキは深呼吸をし、ドアを静かに開けた。
内部は以前と同じように整然としていたが、彼女の目はすぐにターゲットを見つけた。ファイルキャビネットの中に並ぶ過去の患者記録。サキは手早く調べ始めた。
「あった……!」彼女は低くつぶやきながら、一つのファイルを取り出した。それにはリナ以外の患者の名前が記されており、治療計画に不自然な変更が加えられていることが分かった。
リナはスマートフォンで証拠を撮影した。
部屋を脱出したサキは、カイと合流すると言った。「証拠は手に入れたわ。これで次の手を打てる。」
「無事で良かった。」カイは安堵しながら彼女を見つめた。「サキさん、君がどれだけ強いかわかったよ。でも、無茶はするなよな。」
サキは微笑みながら小さく頷いた。「ありがとう、お兄さん。でも、これからが本番よ。」
彼女の決意と行動力は、家族全員を守る希望の光となる一方で、田嶋の冷酷な策略との闘いがいよいよ激化していくことを予感させた。
つづく