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毒親 第55話 悪意の医師

第55話 悪意の医師


田嶋医師は薄暗い部屋で一人、グラスを傾けていた。高級スコッチの琥珀色が揺れ、彼の冷酷な瞳を映していた。書斎の机には、リナの医療記録が無造作に置かれている。その記録を見下ろす田嶋の表情には、一片の良心も感じられなかった。

「リナ……お前の顔を見るたびに、あの屈辱が蘇るよ。」

彼は独り言をつぶやきながら、グラスを机に置いた。リナに振られた日のことを思い出す。田嶋にとって、リナはただの恋人ではなかった。自分の思い通りになる「所有物」のはずだった。しかし、リナは彼の不倫関係を知り、毅然と別れを告げた。それを拒絶されるという形で示された田嶋は、心の奥底に復讐の炎を燃やし続けていた。

彼は医師という職業を利用して、リナへの制裁を密かに計画していた。リナが癌の診断を受けたと知った時、その悪意はさらに深くなった。

「病気で弱っているお前を、もっと追い詰めてやる。」

田嶋はリナの治療方針にわざと最善を尽くさない選択をしていた。表向きは誠実な医師を装っていたが、彼の診察室には誰も気づかない罠が仕掛けられていた。治療薬の調整を微妙に遅らせたり、検査結果を都合よく改ざんすることで、リナの病状をさらに悪化させていたのだ。

その一方で、サキの存在にも目を付けていた。サキに過去に田嶋の違法な診療行為を知られたので、サキを脅迫して沈黙させようと考えた。

「サキ……お前はリナのためなら、どんなことでもするだろう?その気持ちを利用してやるさ。」

田嶋は静かに立ち上がり、机の引き出しを開けた。そこには複数のファイルが整然と並んでいる。リナの記録、サキとの過去の記録、そして裏社会の人間たちとのやり取りを証明する書類。全てが揃っていた。

「準備は万全だ。」彼は冷笑を浮かべた。「次は、家族全員を壊してやる番だな。」


一方、カイとサキは田嶋の悪意に気付き始めていた。サキが話した「田嶋の計画」に耳を傾けたカイは、彼の冷酷さを想像し、怒りを抑えられなかった。

「そんな奴がリナの主治医だなんて……信じられない!」カイは声を荒げた。

「私も何とかしようとしたけど……田嶋は手強いの。」サキの声は震えていた。「彼には裏のつながりもあるし、証拠がなければ何もできない。」

カイは深く息を吐いた。「でも、俺たちが動かなければ、リナも君も危険だ。何とかして証拠を掴むしかない。」

二人は美和にも連絡を取り、三人で田嶋を追い詰める計画を立てることを決意した。しかし、その裏で田嶋はすでに新たな罠を仕掛け始めていた。


翌日、リナの病室には田嶋が現れた。彼はいつものように穏やかな表情を装いながら、リナのベッドサイドに立った。

「リナさん、体調はいかがですか?」

リナは弱々しい声で答えた。「少し疲れが残っていますが……大丈夫です。」

「それはよかった。」田嶋は優しげな口調を保ちながら、心の中でほくそ笑んでいた。「次の治療について少しお話ししましょう。新しい薬を試してみる予定です。ただし、副作用が出る可能性がありますが、心配しないでください。」

田嶋のその言葉には、明らかに悪意が隠されていた。新しい薬と称して渡されるものは、本来リナの病状には適さない成分が含まれていたのだ。

「お前が苦しむ姿を見るのが楽しみだよ、リナ。」田嶋は内心でそう呟きながら、リナに微笑みかけた。

サキは、リナの病室に入ろうとしたが、田嶋とリナの話し声がしたのでそっと聞き耳を立てていた。田嶋の優しい話声の裏にある悪意を感じ取り、密かに心を決めた。「お姉ちゃんを守らなきゃ……!」

新たな局面に突入した家族の戦い。果たして彼らは、田嶋の罠を暴き、リナを救うことができるのか?闇はますます深まり、その中で希望の光を見つけるために、カイ、サキ、美和はそれぞれの覚悟を試されることになる。


つづく

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